novel | ナノ
ひかりと共に、会議室の扉を開く。そこにいたのは、ボスである風紋と和舞だった。

「…あれ、ボスだけだと思ってたんですが、何故和舞まで」

「まぁそれは追い追い」

いやに満面の笑みを浮かべる和舞。希望は腑に落ちないといったような表情で、椅子に座る。その隣にひかり。さて、とボスの声が、広い部屋の中に響く。

「数時間前の襲撃だが、あれは我々の同胞ではなく、全く別物の、化け物だった。それは間違いないね?」

「はい」

化け物と聞いて、ひかりが「え」と声を漏らす。ひかりは現場にいなかったのだから、風紋と希望の話を読めていないのだろう。そう感じたらしい和舞が手元にあったリモコンを操作すると、白い壁に映像が映し出される。それは、話題に上がる襲撃の映像だった。

「彼らは、自らを現人神の守護獣だと言いました。そして、イラツメの為に死ね、と、我々に襲いかかってきました」

「……現人神かぁ」

和舞が溜息にも近い声を漏らす。
現人神。神話にも近い歴史、歴史にも近い神話の中で、今のジパングを統治したとされるいわば国父。現人神の血は日元という家に伝わり、その日元家は国家統治の象徴として現在も君臨している。

「ですが、我々は現人神と接触したことなど皆無です。というより、我々のような者が接触できるような相手ではないし、何より、我ら神見愛者は現人神には認知されていません」

「その通り。なかなかに博識かつ思慮深いね、希望」

風紋の言葉に、希望は薄く笑みをこぼす。

「…そういうことで、現人神本人ではなく、現人神周辺…そう、それこそ彼らが言っていたイラツメとやらが、我らと接触したことがあるとすれば、何か手がかりが、と思ったのですが」

「ぶっちゃけ、そんなの分からない、っと」

「……和舞の言う通りです」

嘆息し、希望は気怠げに背もたれにもたれる。ぎぃっと椅子が軋む音がする。ひかりは映像にかじりついていて、ごくりと唾を飲み込んだ。その気配を感じながら、希望は体を起こしてもう一度姿勢を正す。

「このタイミングでの我ら神見愛者への接触なので、もしかしたら彼らが天国を拉致した犯人では、とも思ったのですが」

「同じ神見愛者の自分たちは殺されそうになったのに、天国だけ生きたまま拉致されるなんてことは可能性として低い」

「…それもそうですし、もし天国が向こうにいるなら、その存在をほのめかした方が我らを無力化できるでしょうに」

「それがなかった、と」

「それから、守護獣、というワードも気になります。獣、というのは、比喩なのか、それとも本物の獣という意味なのか」

「…後者じゃない?」

「……さっきからちょいちょい口を挟まれるの、煩わしいのでやめてもらえません?」

希望の晴れた空色が和舞を射抜く。甘ったるく熟した桃色をばつが悪そうに細め、宙に視線を逃す和舞。

「あーもーちきしょー、ボス、希望に怒られちったじゃん」

「そうだね」

和舞の言葉に風紋が頷く。和舞は虚空を見つめたままにやりと笑う。風紋が指を鳴らす。和舞の体がびくりと大きく痙攣する。そして糸が切れた人形のように、がくり、と深く深く項垂れた。

「……和舞?」

何かが変わった。それは、言うなれば雰囲気。ゆらりと和舞が顔を上げる。

「奴らは本物の獣だがん」

口調。目の色。

「神が関わっちょるんなら、好都合」

燃え盛る太陽のような、爛々とした橙が会議室を見渡す。希望とひかりが驚愕の色を見せているのをよそに、和舞は…和舞の形をした何かは、風紋を見つめて微笑む。

「おまんらに聞かせちゃろ。現人神の話」

風紋の笑みが深まる。

「よろしくお願いします。最高神エアイエ」







[ back to top ]