「いらっしゃいませ」 細められた目がこちらに向けられる。そして、顔をまじまじと見つめた後で小さく微笑み、「どうぞこちらへ」とエレベーターへ促された。 エレベーターもビルの壁と同じ白壁だったが、扉の開閉ボタンしかない。今、何階を通過したのか、どれくらいのスピードで上昇しているのか、あるいは下降しているのかさえ分からない。 やがて中低音の鐘の音のような音がし、扉が開かれる。そこは、一般的な会議室のように長机が設置された広間だった。案の定、窓がない。果たしてここは地上なのか、地下なのか、はたまた上空なのか。 「ご苦労、さくら」 狼狽していると、広間の最奥に座っている男が口を開いた。薄暗い白熱灯の光を受けて、男のジパング人らしくない銀髪が輝く。さくら、とは、ここまで連れて来てくれた桃色の髪の女のことだろう、彼女は一礼し、近くにあった空席に座った。 「ようこそ、神に愛された7人目よ。…名を」 ものを言わせぬ声色に気圧され、彼はごくりと唾を飲む。そして、ゆっくりとひとつ深呼吸。 「…天売匠」 「天売って、お前、《天国の島》かよ!」 名乗ってすぐに、銀髪の男の隣に座っていた少年が声を上げる。彼の被ったフードから微かに白髪が見え隠れする。すると、そんな少年の向かいに座っていた、軍帽を被った黒髪の少女が机を叩く。 「お黙りなさい流沙。今はお前が口を挟む時ではないわ」 「そんなお前だって口挟んでんじゃねェか、黙ってろ戦争女」 「…………あんたねぇ、」 「マァマァ、薔薇チャンってば落ち着いてヨォ〜」 戦争女、薔薇、と呼ばれた少女は深紅の隻眼をつうと細めたが、隣に座るターバンを巻いた青年の制止の声で肩の力を抜いた。 「さて、無駄話はその辺りにしよう」 銀髪の男の低い声により、再び重い空気が流れる。 「匠君、ようこそ、神見愛者へ。我らは神に愛された者であり、神から授かった恩恵を人々に分け与える為に生まれたのだ、分かるね?」 「…まぁ、はい」 「物分かりが良くて助かるよ、さぁ、紹介しよう、君と同じように、神に愛された者達を」 男がゆっくりと手を伸べれば、先程の赤いパーカーの少年と軍帽の少女が立ち上がる。 「風川流人。余談だが、私の弟だ。コードネームは《流沙》。そして、荊華院薔子。コードネームは《薔薇戦争》」 「…!…荊華院…」 数年前、自分が幼かった時のジパング首相が確か荊華院ではなかったか、そんなことを考えているうちに二人は着席し、次にターバンの青年と受付の女が立つ。 「弘法ランダーナ踊。これも余談だが、私と流沙の従兄弟だ。コードネームは《サラバンド》。君を案内してくれたのは佐倉歌織。コードネームは《さくら》」 なるほど、ターバンの青年の妙な訛りは移民の血の所為か、と納得していると、桃色の髪の女、さくらが微笑んで会釈する。思わずどぎまぎしたが、ふと銀髪の男の刺すような視線に気付き、心を落ち着ける。 そして、濃紺の髪の中性的な人物が最後に立つ。 「寿御幸。コードネームは《じゅげむ》」 何と無く女性らしい名前のような気がしたが、仲間となればまた確認する機会があるだろう、取り敢えず今のうちは彼女ということにしておくと、彼女、じゅげむは礼もせずにすぐに着席した。 「そして私は風川風人。コードネームは《風紋》。これから仲良くしよう、《天国》」 [ back to top ] |