novel | ナノ
どうも皆さんこんにちは、天売 匠です。この度就職先が決まって今は《天国の島》通称《天国》って名前で世の為人の為になる仕事してます。今日も一日頑張ろう。
そんな感じで今、本部のビル内をうろついている。すると、向こうからフードをかぶった奴が来た。

「お、天国ー」

こいつはコードネーム《流沙》。俺より年下だし"目覚めた"のも俺より遅いらしいけど、俺より長くここにいるから俺の上司。顔色最悪な奴だけど、別に不健康ってわけでもないようで、戦闘能力を持ってるらしく、しかも強いらしい。

「…あー、あのさ、流沙」

「ん?何だよ」

歳が近い所為か、今この職場の中で一番話しやすいのがこいつ。

「あのさ、俺、いまいち神見愛者のことよく分かってねぇんだ」

だから、常々思っていた疑問をここでようやくぶつけてみようと思う。ボスの弟だし、他の人に聞くより正確だろうし。何より、親身になってくれそうだし。

「あんれ、知らねぇの?仕方ねぇなー、教えてやんよ」

ま、座れ、と流沙に言われ、近くにあったベンチに座る。流沙は向かいの壁に背を預けて立っていた。

「神見愛者はな、特殊能力者の集まりだ」

「あー、それは分かる。……あぁ、そういや何で俺達ってそんな能力持ってんだろ」

俺の場合、三年前に地元の豊漁の祭で舞を踊らされた時に自分の能力に気付いた。俺の能力は『望むものを集める』こと。俺が舞い始めてからの漁は、いつも大漁だった。それ以来三年間、ずっと舞ってる。

「あー、んー…厳密にはよく分かってねぇんだよな、俺達の能力の起源」

「……やっぱそんなもんか」

「けど、兄貴の研究で少しずつ分かり始めてる。例えば、能力者は一年に一度、二月頃に、毎年五人ずつ現れるってこととかな」

ボスはこうして能力者の研究をし、少しでも多くの仲間を集めようとしているようだ。俺もある日ボスからの電話で引っこ抜かれたって訳。

「あら、天国と……」

「げ、出やがったな戦争女」

そしたらば、向こうから黒いショートドレスの美人がやって来る。何年か前のジパング首相の孫娘らしい、コードネームは《薔薇戦争》。名前もそうだけど、背負ってる刀がとてつもなく厳ついな、と初めて会った時から思ってた。

「あら、何よ流沙。新入りに対して先輩面でもしてるのかしら?」

「黙ってろ阿婆擦れ、さもないと毒殺すんぞ」

「あらやだ、どうせ肌が青黒くなったりするのでしょ?願い下げだわ」

「……表出ろクソアマ!」

「いやまぁ待てよ流沙!薔薇戦争も真に受けんなって!」

どうしてこいつらは顔を合わせると必ず喧嘩するんだろう。実は仲良いんじゃなかろうか。薔薇戦争は美人だし、流沙もまぁ、男の俺から見ても悪くないし。意外と似合うよお前ら。

「……まぁ良いわ。…で?天国、何か分からないことでもあるの?」

「あ、いや、神見愛者のこととか……」

「…あぁ、成る程」

そんなことも知らないのかよと言わんばかりの顔したなこいつ。…と思ったのは胸の内だけにしておく。言ったら何されるか分かんねぇし。こう、なんつーか…薔薇戦争はオーラが怖い。

「神見愛者はね、大きな目的が三つあるの」

俺の隣に座る薔薇戦争。がしゃん、と刀の音に、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「一つは、人助け。わたくし達は神に選ばれた者、だから一般人に神の慈悲を分け与えるのよ」

「あぁ……初日にボスが言ってたな」

「えぇ、そうね。…二つ目は、ジパングの治安維持。【日元】はわたくし達の存在を知らないの、だからこそ、ジパングの裏の事件は秘密裏に済ませなければならない。まぁ詰まる所、【日元】へのボランティアね」

【日元】……あぁ、軍隊の…ジパングのトップの現人神サマか。あまり表舞台に出ないから、顔はうろ覚えだけど…まだ若いんだっけ。まぁ俺よりは年上だろうけど。

「そして、三つ目は、」

「"神に愛される者"を探すこと」

「………………」

薔薇戦争を阻んで流沙が言う。恐る恐る薔薇戦争を見たら……あぁ、怒ってる、薔薇戦争が怒ってるぞ流沙、俺知らねぇぞ、俺悪くねぇぞ。
案の定、薔薇戦争は勢い良く立ち上がり、腰に差していた剣を抜いた。対する流沙も薔薇戦争に向き合い、目を細める。

「お前は少し口を慎みなさい!人様の言葉を遮るなんて、どんな神経をしているの?!」

「べらべらさらさら喋りすぎなんだよてめぇはよ。天国が付いて行けてねぇだろうが!」

「ちょ、ああああああもう!!二人とも落ち着けって!俺は大丈夫だから、な?」

勇気を出して間に割って入ってみたが、如何せん二人の殺気が凄まじい。流石、神見愛者にたった二人だけの戦闘要員。幾つもの死線を掻い潜ってきただけのことはある。…って違う!今この場を死線にしちゃ駄目だろ!

「ほ、ほら、俺、メンバーの能力とかも気になったりして……」

話題を逸らそうと口を付いて出た言葉が我ながら良かったと思う。そうだ、俺、他のメンバーの能力知らね。ボスはボス、流沙と薔薇戦争は戦闘要員、くらいしか。

「…そうだな、教えといてやるよ」

そう言って流沙は目尻を緩めて俺を見る。殺気は消えた。良かった良かった!
しかも、何たるラッキー。さすが《天国の島》の力。先輩方の能力を知りたいと願えば叶ったぜ、よっしゃ。

「俺は『生ける化学兵器』。俺の血とか体液、全部毒か薬なんだ」

「………お?」

自分の能力がただのラッキーみたいな、どちらかというとサポート的な能力だったから、流沙の能力には正直度肝を抜かれた。そんなSFみたいな能力…実在するんだ。
対する薔薇戦争も剣を鞘に収め、溜息をついてまた俺の隣に腰を下ろした。

「…わたくしは『凶器の行使』。使えない凶器はない。どんな凶器でも、手にすれば使い方が分かる」

怖ぇよ!!名前と容姿もだけど、能力も厳つかった薔薇戦争。綺麗な薔薇には棘があると言うけど、こいつの棘はもはや針山だ。

「……で、どうする、さくら姉さんあたり行っとくか?」

「サラバンド、じゅげむ、ボスもいるわよ」

「え、あ、」

そんな張り合うみたいに迫ってくるなよ!!やっぱてめぇら仲良いだろ!!

「な、な、順番に行こう、ほら、どうせみんなの能力は知るんだし、な?」

こうでもして宥めねぇと止まらねぇ。よし、止まったぞ二人。だんだん扱い方が分かってきた。

「そうだな、天国の言う通りだ。どうせいずれは知らなきゃならねぇわけだし」

「じゃあやっぱりまずはボスね。ボスの能力は…………」

変に緊張して、ごくりと唾を飲み込んだその時。

ピンポンパンポーン

『流沙くん。薔薇戦争ちゃん。風紋様がお呼びです』

……あぁ、この耳が幸せになるような優しい声はさくらさんだ。…つーか、この二人が一緒に呼ばれるなんて。何、誰か暗殺でもしに行くの?それとも暗部抗争?

「……あら、そういえば今日だったかしら、日元の暗殺を企ててる新興宗教団体を潰しに行くのは」

「あー、大人数だから俺一人で十分だっつーのに、兄貴ってば…」

「……流血しすぎてぶっ倒れるあんたを毎回毎回連れて帰ってるのは何処の誰だと思ってるのかしら……?」

ああもう!また火花散らしやがって!単純だなこいつら、学習しろよ……なんて言えない。新入りの俺なんか多分瞬殺だ。
てか今から仕事か。成る程、裏の仕事っていうのが分かった気がする。やっぱりそういう、漫画とかでよくあるあれだ。

「い、いろいろありがとな、ほら、呼ばれてんぞ」

「分からないことがあったらまたいつでも聞きに来いよ」

「あら、こいつよりわたくしを頼る方が賢明よ」

「………なぁ、俺の顔斬ってみ?劇薬出してやるから」

「いい加減仲直りしろよ!ほら行って来いって!」

二人の背中を押しでもしないとこいつら多分動かない。だから取り敢えず力任せにエレベーターまで押してやった。渋々エレベーターに乗り込む二人を見送り、また一人になってしまった。
あぁ、大変な職場だ。だけど、やり甲斐がありそう。俺の力が存分に発揮されますように。







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