novel | ナノ
信号待ちをしている。赤が長い。随分長く待ったと錯覚してしまう程度には赤信号が嫌いだ。ひかりは内心でぶつくさと言いながら、隣で背筋を伸ばして立つ希望に目を向ける。

「…で?天国救出のために、オレらはどこに向かってるワケ?」

「まずは情報収集からですよ」

「さっきと同じこと言ってんじゃねぇよ。どこ向かってんだって聞いてんの。場所を答えろよ場所を」

希望の頭を叩こうと手を振り上げる。その瞬間に信号は青に変わって、希望の頭が前に進む。ひかりの手は空を凪ぐ。希望は人混みをものともせずに足早に交差点を渡る。草履のくせに大したもんだ、と思ったりもしたが、言ってやるものか、絶対に、とひかりは唇を噛む。
人混みを掻き分けて遅れを取るひかりとは裏腹に、希望の歩調は緩まない。ひかりよりも身長が低い希望なので、気を抜いたら見失ってしまいそうだ。なんとか希望を視界に捉えながら、ひかりは彼の背を追う。

「もうすぐ着きますよ」

人ごみの中でもはっきりとした、凛とした声がひかりの耳につく。だからどこに、と言いかけて、ふと、人混みが開けたことに気付いた。彼らの目の前には、ビル。入り口には、複数の警備員と、数多のセキュリティー会社のシール。
希望は寄ってきた警備員に紙を見せる。ひかりが紙の内容を確認する前に、警備員は二人に対してビルの中への誘導を示した。希望も紙を懐に仕舞う。渋々と希望の後について、ビルの内部に入場する。

「季朽希さん」

そして、エントランスでこちらに向けられる声に気付く。見れば、パンツスーツの女性がこちらを見て微笑んでいた。腰まである長い黒髪を揺らしながら、彼女は赤い目を細めてこちらに歩み寄ってくる。

「お話は伺ってます、季朽希さん。お待ちしておりました」

女は希望のそばで立ち止まり、優雅に頭を下げる。希望も小さく笑い、「季朽希です」と会釈した。お前そんな名前だったの、とひかりは言いかけたが、なんとか喉の奥で留める。今ここで言うことではないだろう。

「鐘撞帝華さん、ですよね。ユートピアのマネージャーの」

「えぇ」

女は…鐘撞は「どうぞこちらへ」と二人を誘導する。鐘撞の後について行く希望。そのさらに後ろにつくひかり。鐘撞の後ろ姿を見つめ、なんとなく目を細めたりしながら、ひかりは言い知れぬ違和感を覚える。しかし、なんとなく確信が持てないうちに、いつの間にか、招かれるままに会議室のような部屋に連れて来られた。

「どうぞお掛けください」

遠慮なく椅子を引いて座る希望。彼に倣ってひかりも腰掛けたところで、先程閉じたはずの扉が開く。そして室内に入ってきた人物を見て、ひかりの口から思わず音にも近い声が漏れた。

「鐘撞さーん、この人たちがヘヴンを捜してくれる人たち?」

髪を掻きながらへらへらと、欠伸すら漏らしながら部屋に入ってくる黒髪の男。

「……げ」

希望を見るや否や、怪訝そうに顔を歪めてひかりと同じような声を漏らす灰色の髪の男。

「ご存知かと思いますが、ユートピアのメンバー、カエとルストです」

鐘撞の紹介に、カエは愛想の良い笑みを、ルストは不愉快そうな表情を浮かべた。






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