「落ち着いて。よし、横になれるかい?」 リヴリーはこくこくと頷く。じゃあ大した発作じゃない、と淨は判断し、リヴリーから体を離した。 「今日は洗濯日和でね、シーツを洗っているから、一つしかベッドが空いてないんだよ。ラッキーだね」 淨の軽い冗談に、リヴリーは額に玉のような汗を浮かべながらも小さく笑う。淨も微笑みを少女に見せ、少女の小さな体を抱き上げてベッドに寝かせた。 吸入タイプの薬を用意し、リヴリーに処置を施す。リヴリーの呼吸が徐々に落ち着きを取り戻し、ふぅ、と彼女は疲れたような重い息を吐いた。 「これでしばらくは大丈夫だろう。ゆっくりお休み」 リヴリーの髪を撫でてやれば、彼女は小さく頷き、すうと目を閉じた。しばらくして聞こえてきた穏やかな寝息に、淨は笑みをこぼす。 「おい」 そして背後から投げかけられた声に、淨は振り返る。そして白衣のポケットに左手を突っ込み、「やぁ、雅」と右手をひらりと振った。おう、と声の主、雅は医務室に入ってくるや否や、眠るリヴリーの姿を認め、さらにその隣の、シーツの掛かってない畳まれた布団のみが鎮座するベッドを見て顔を歪める。 「残念ながら、今日は君の寝床はないよ」 「…見りゃ分かる」 ちっ、とあからさまに舌打ちし、雅はリヴリーが眠るベッドの傍の椅子に腰掛ける。淨は薬品棚の整理をする為にしばらく二人に背を向けていた。ここ最近リヴリーの発作が頻発している、ステロイドを手前に出すついでに調達しておこう、などと考えながら、手を動かすのを止め、リヴリーと雅の方を見る。そして微かに瞠目したのち…淨は小さく笑った。 「雅」 声をかければ、彼はびくりと肩を震わせ、リヴリーの髪を撫でていた手を淨の死角に隠す。ばればれだよ、とは言わずに、「少し薬の買い出しに行ってくるよ」と白衣を脱いで椅子に掛けながら告げた。雅はあくまで平静を装い、おう、と応える。淨はそのまま二人を残し、医務室を後にした。 小一時間後、薬をはじめ、ガーゼなどの消耗品を買い込んだ淨は医務室に戻ってくる。「ただいま」声を上げるが、返事はない。机に荷物を置いてベッドの方を見ると、相変わらずリヴリーはすやすやと眠っていた。そしてその傍らで、ベッドに突っ伏して眠る雅の姿もあった。 「……風邪を引くよ」 あらかじめ取り込んでおいた洗濯物の中から、ブランケットを探り当てる。陽の光を浴びて心地良い柔さを持った分厚いそれからは、フローラル系の洗剤の香りがする。 淨はそのブランケットを愛しい人の体に掛けて、慈しむように微笑んだ。 [ back to top ] |