「やぁだ、それが答えなの?」 ちろりと舌を出して、エスを見上げる萌々香。エスの顔は相変わらず赤い。萌々香の手首を押さえる手の力が緩んだのを見計らい、萌々香は腕を引き抜く。そしてエスの体を突き飛ばし、起き上がった。ベッドからずり落ちたエスは、ベッドの上に君臨する萌々香を見上げて目を瞬かせる。 「それがクドイっつってんの」 萌々香はどかっとベッドに腰掛けて脚を組む。エスの角度からだとナース服のスカート部分の中が見えそうになって、エスは慌てて顔を背ける。それに気付いた萌々香はにやりとほくそ笑み、スカートの裾を摘まんだ。 「アンタ、アタシがどういう女か知ってるでしょ?」 え、とエスが顔を上げる。萌々香は相変わらずの笑みでエスを見下ろしていた。そしてベッドから立ち上がり、エスの前に膝をつく。その輪郭を優しくなぞり、エスの右目を隠す斜めに揃えられた前髪を指先で弄んだ。 「アタシはキヨ先生お付きの看護師。キヨ先生一筋なの。そんなアタシを、アンタは好きなんでしょ?」 さらりと前髪を流すと、彼の眼窩が見えた。空っぽのそこを見つめてつうと目を細め、萌々香はエスの耳に口を寄せた。 「じゃあ、奪ってみせなさいよ」 びくりとエスが肩を震わせるのを感じた。エスの耳に息を吹きかけ、萌々香はエスから体を離す。そして彼の顎を掬い取り、萌々香の方を向かせた。猟奇的な鷹の翼のような色をした目が、エスを捉えて離さない。 「アタシの中からキヨ先生を消せるくらい、アタシを愛しなさいよ」 エスの腕を取り、己の首に回させる。エスは目を逸らすも、萌々香は自分の首に回させたエスの手を引いて抱き寄せさせた。 「…萌々香さんは、ボクのこと、好いてくれてるんですか…?」 耳元で萌々香の笑い声が聞こえた。萌々香はもう一度エスから体を離し、今度は自分からエスの唇に食らいついた。 「さて、どうだろうね?」 濡れた唇に人差し指を宛がい、萌々香は首を傾げる。エスはやはり頬を赤くし、今度は自らの意志で萌々香の体を抱き寄せた。萌々香は拒絶しない。エスは萌々香の肩口に顔を埋め、そのまま黙りこくってしまう。 「……ボク、あなたのこと、愛せますかね…?」 「アンタがアタシをオトしたいなら、できんじゃね?」 そうですか、と消え入るような声で一言呟き、エスはそのまま萌々香のナース服の襟元をまさぐる。そして首に回した手で彼女の髪を払い除け、露わになった首筋に額を置いた。 「…ボクに、チャンス、ください」 萌々香が歯を見せて満足そうに笑ったのを、エスはきっと知らない。 [ back to top ] |