自分の部下が、赤い薔薇の造花と共に消えた。メディアは目を細め、テーブルの上に飾られた花瓶から青い薔薇を一本引き抜く。 「…まぁいいわ」 そしてその青い薔薇を毟り、その唇に弧を描いた。 「代わりはいくらでもいるもの」 「……ローズローザッ!」 自分の部下が、青い薔薇の造花と共に消えた。ベルキスは声を荒らげ、テーブルの上に飾られた花瓶に目を留め、自らを落ち着かせる。 「…仕方ないわね」 そして花瓶から赤い薔薇を引き抜き、その花弁を慈しむように撫でた。 「幸せになりなさい、ワタシの目の届かないところで」 行く宛はなかった。とにかく遠くへ、上司が追いかけてきても、時間稼ぎができるくらいには遠くへ。 早足で歩くローズローザの後ろを、小走りで追いかけるローレン。彼女が小さく息を切らしているのを聞き、ローズローザは歩調を緩めた。 「…ご、ごめんね、ローズローザ…」 ローズローザはちらりとローレンを顧みて、すぐに前を見る。ローズローザの後をついて行きながら、ローレンはそっと彼の袖口を握った。 「……ねぇ、ローズローザ、」 「…………」 「変なこと、聞いていい…?」 ローズローザは答えない。ローレンはそのまま一度は目を伏せるも、彼の後ろ姿を見つめて口を開いた。 「ローズローザは、わたしのこと、きらいじゃ、ないの…?」 ローズローザはやはり答えない。悲しそうに伏せられたローレンの目に涙が滲む。その時、ローズローザの手が自分の袖口を摘むローレンの手を掴んだ。そのまま弄るように手を包み、指を絡めて固く握る。まるで、それが答えであるとでもいうように。 ローレンも彼の手を握り返し、少し歩幅を大きくしてローズローザの隣に並ぶ。 「嫌よ嫌よも、好きのうち……って、やつ…?」 ローズローザが横目に彼女を見れば、青と目が合った。この青を守りたい、とさえ思った。 「……ばーか」 そうだ、素直になれなくても、それは好きのうちだ。それを彼女が分かってくれるなら、もう何もいらない。 ローズローザは少しローレンの方に動き、ぶつかるくらいに彼女に寄る。ローレンも彼の腕に頬を寄せ、微笑んでいた。 その時、突然二人の前に白い影が現れる。ローレンが肩をびくつかせるが、ローズローザは動じない。鋭い牙を持つその白が身を引けば、彼の背後から少女が現れた。その少女が誰であるかを悟った時、ローズローザも驚きを隠せなかった。 少女は二人に歩み寄り、二人が繋いでいる手を取る。二人の手をまとめて包み込み、彼女は薔薇の花のように赤い隻眼を光らせて口を開いた。 「荊の華の下においでなさい」 [ back to top ] |