ローズローザと同じ色をした人間が……厳密には、人間の皮を被った精霊が、その赤い目を細めて呟く。え、とローズローザは息を詰まらせ、精霊から目を逸らした。 「知ってるわよ。アナタと"同じ"女でしょう?アナタが彼女と会った日は必ず女の匂いがしていたわ」 「……そうですか、ベルキス様」 「知ってるわよ。ここ最近毎日会ってるんでしょう?けど、最近は匂いがしないわ」 音楽の精霊、ベルキスが言わんとすることを察し、ローズローザは舌打ちをして目を伏せる。 「かわいそうね、その子」 「…いいんです、あんな無能な奴のことなんか」 「アナタの意見はどうでもいいわ」 ローズローザは顔を上げ、ベルキスの方に体を向ける。前髪の隙間から、睨むような鋭い眼光がベルキスを射抜いていた。 「無能な奴は、才能ある奴に蹴り落とされて当然でしょう?俺は…俺はあいつに、女として、メスとしての価値があると思い利用しました。…それに飽きただけです」 言葉を紡ぎながら、何故かローズローザは視線を外す。しかし、彼を見下ろす精霊の視線は冷たい。ベルキスは椅子に座ったまま頬杖をつき、目を細めた。 「アナタの意見はどうでもいいと言ってるでしょう」 はっと、ローズローザは瞠目した。炎のような赤い視線がローズローザを捉える。痛みすら感じさせる熱さに、ローズローザは耐えるように固く拳を握る。 まるで戯れだと言うように、ベルキスはローズローザから視線を外す。そしてゆったりと脚を組み替え、溜息をついた。 「それは本当にアナタの本音かしら。…ねぇローズローザ」 主人に名を呼ばれ、ローズローザは顔を上げる。なんとも言えない感情を顔に滲ませ、「はい、ベルキス様」と小さな声で応えた。 「女というものは、か弱いの。大切にしてあげなきゃいけないの。弄ぶなんて、言語道断だわ」 「…………」 「アナタは薔薇戦争の模造品であり、ワタシの子。だから、そんな酷いひとなはずがない。…アナタ、本当はどう思っているの?」 子供に言い聞かせるように優しい口調で語るベルキスの目には、愛しむような色があった。ごくりと唾を飲み込み、ローズローザは何も言えない。 「アナタはワタシのようになってほしくないわ。目の前にあるものを、ちゃんと大事になさい」 …胸の奥が満たされていくのを感じた。主人はそのまま椅子から立ち上がり、目を伏せるローズローザの脇を、笑みを浮かべて通り過ぎる。何処へ、とローズローザがぽつりと問えば、笑みを深めて彼女は部下に子供のように弾んだ声で言った。 「ワタシの愛したひとが愛したものを、見に行ってくるわ。二年ぶりの来日なのよ、うふふ」 [ back to top ] |