なんとか落ち着きを取り戻したところで重い腰を上げ、ローレンは湖の淵に寄る。水面を覗き込めば、自分の顔が映り込んだ。そこで喉の痛みに気付き、水を飲もうと水面に手を伸ばす。そして…そのまま前のめりに湖に落ちた。 「っ!? は、あっ、かふっ」 湖は深く、足は届かない。もがけばもがくほど水は彼女に襲いかかる。怠い体ではろくに動くこともできず、水を飲み込みながらも腕だけはなんとか伸ばして足掻く。 「……っ…ふ…!」 もう駄目だ、そう思った時だった。最後まで伸ばしていた腕が誰かに掴まれ、引っ張り上げられ、ローレンは水から解放された。 咳き込みながらなんとか息を整え、顔を上げる。しかし助けてくれた者の顔を見て、ローレンは瞠目した。 「ほんっとお前、無能だな」 ローレンを蹂躙した、ローレンと同じ顔をした男、ローズローザが不敵な笑みをたたえて立っていた。ローレンの目に、また涙が浮かぶ。 「拭けよ、風邪引くぞ」 しかし、ふわりと頭に飛来した白い柔らかい布に、ローレンの涙が引っ込む。 「服は流石に用意できねぇから、まぁ、乾かすなら脱げばいいんじゃねぇの」 何の気なしに放たれた言葉にローレンは赤面するも、確かに彼の言うとおりである。「…こ、こっち見ないで、ね」と一言断り、衣服を脱いだ。ほ、と一息ついていると、背後から抱き締められた。 「バァカ」 ローレンは硬直するばかりだった。彼の手がローレンの肌の上を滑る。しかしローレンは肩の力を抜き、ローズローザに体重を預けた。 「………何してんの」 ローズローザの手が止まる。ローレンは肩越しに彼を見て目を伏せた。 「……もう、いいの」 「…もういいって、何」 「……他の人には、何もしてないんでしょ?…わたしがローズローザにひどいことされてるから、…わたしだけで、いいんでしょ…?」 だから、もういいよ。そう言って、ローズローザの手に手を重ねるローレン。今度はローズローザが目を見開く番だった。彼はローレンを突き放し、自分のジャケットを脱いで彼女に投げつける。 「誰がお前みたいな無能を抱くかよバァカ!自惚れてんじゃねぇよ!」 「あ、ろ、ローズローザ…」 ローレンが声をかけるも、ローズローザは大股でその場を後にする。彼の後ろ姿が見えなくなったのを見届けてから、ローレンは少し微笑んで、彼のジャケットを抱き締めた。 [ back to top ] |