咲散華 ::ちいさなてのひら 「手、出してみて」 夫、荊華院蓬莱にいきなりそう言われ、蒼は目を瞬かせた。少し引き気味に夫を見つめれば、彼はにこりと笑うばかり。 「…何をなさるんですの?」 「いいから手、出して」 「嫌ですわ」 「なんで?」 「今のように『手を出して』と言われて出したわたくしの手に蛙を三匹乗せたこと、覚えていらっしゃいますか?」 「ははは、昔の話だ」 「三日前の話ですわよ!」 吼えながら蒼は着物の裾で必死に手を隠そうとするが、蓬莱の手が布越しに蒼の腕を掴む。 「本当に何も乗せないから!」 「信用なりませんわ!あなた小さい頃からいつもそうですもの!」 「俺も成長してる!」 「三日前のことを思い出してくださいまし!」 そうこう言い合っているうちに、蓬莱は蒼の手首を掴んでいた。蒼は必死に振り払おうとするが、男女の力の差は歴然である。 「………もういい」 諦めたように蒼は力を抜き、拳を差し出した。蓬莱の手が蒼の手を取り、固く握られた指を解く。顔を背けて目を閉じる蒼は、異物を待ち構えているようだった。しかし、何も起こらない。 「……?」 薄目を開けて夫を見れば、彼は微笑んで蒼の手のひらを弄んでいた。まるで猫の肉球を弄るように。 「蒼の手は柔らかいなぁ」 時折指を折り曲げたり自分の手のひらと重ねたりしながら、蓬莱は蒼の手を愛撫する。蒼は驚いたように目を見開き、やがてその白い頬を赤く染めて空いた手の方の着物の裾で顔を隠した。 2015.02.08 (Sun) 17:02 back |