咲散華 ::色づくもみじ 「ねぇ優」 「なぁに?」 彼女は彼に寄り添いながら、目を閉じる。 「この子の名前、どうしようね」 彼女の腕に抱かれる赤子を見下ろし、彼は微笑む。そして二人を見下ろす紅葉の大木を見上げ、また赤子に視線を落とした。 「紅葉が美しい日に生まれたから…もみじ、とかどうだろう」 「うふふ、私もそう思ってたところだよ」 彼は彼女をそっと抱き寄せる。彼女の手に、もふり、と柔らかいものが触れた。それが彼の五本の尾のうちの一本であることは、目視せずとも把握できた。 「でもね、」 「荊華院初代が、別名、紅葉の上だったんでしょう?」 「うふふ、正解!」 「茨木の言うことは、お見通しだよ」 彼は髪と同じ色をした白い耳を少し動かしながら言えば、彼女は微笑んで彼の肩に頭を乗せた。 「うふふ、じゃあこれから私が言おうとしてること、分かる?」 「勿論だよ」 肩を抱く手をずらし、彼女の艶やかな黒髪を撫でる。 「この子の名は、もみじ。樅の路、と書いて、樅路だ」 2014.11.22 (Sat) 19:11 back |