荊華院 | ナノ


咲散華


::華は朽ちる

彼の隣には、白無垢を着た美しい女。女はちらりと彼を見ると、頬を染めて顔を伏せた。

「…季朽の娘よ。…柚(ゆず)、といったか」

「……はい、樅路様」

彼…荊華院第一二代当主、樅路は、白無垢の女…季朽柚の名を呼ぶが顔を見ることはなかった。

「…僕の六代前…荊華院蘭の予言通りになってしまった」

「存じておりますわ」

「……季朽が生まれた意味を、全うするというのか、お前は」

「えぇ。だってわたくし、貴方様のことを愛しておりますもの」

紅を施した唇が弧を描く。樅路はその赤みがかった橙の目を細め、柚を横目に見た。

「…たった今、この婚姻の儀で初めて会った僕のことを愛していると」

「えぇ。だってわたくし、季朽ですもの。荊華院を愛する為に生まれた家ですもの」

そうか、と一言だけ返し、柚から視線を外す。「随分と季朽はとち狂っているらしい」言おうとして、飲み込んだけれど。

「…僕は、いや、僕より後の荊華院の当主たちは、恋を捨て、愛を知らずに咲いて散っていくんだな」

目の前に置かれた、酒で満たされた杯を手に取り、樅路は目を伏せる。

「そして荊華院は、ただ美しいだけの化け物へと成り下がっていくのだろうよ」



 

2014.11.21 (Fri) 23:05


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