咲散華 ::苑に咲く 荊華院第二七代当主、苑は畳の上に大の字になって寝そべっていた。差し込む日差しのぬくもりに、つい瞼が重くなる。逆らうことなく目を閉じると、脇腹に激痛が走った。 「仕事しろ阿呆当主」 茶色い影が見えるが、眼鏡がずれて霞んでいる。眼鏡を正し、鮮明になった視界に映ったのは、茶髪に金の目を持つ男だった。 「あー……緋璃?」 乱れた髪を掻いていると、またしても男に腹を蹴られた。苑は呻くばかり。 「ヒリ、じゃなくてヒーリー」 「前まで緋璃だったじゃないか…母上も緋璃って呼んでただろ……」 「日本人もそろそろ俺らの名前の発音できるようになってるだろ」 「折と緋璃?」 「ウォルとヒーリーだ」 う…うお…をる…?と発音に苦戦していると、再三に渡って腹を蹴られた。しかも今度は踏みにじられた。彼の脚を払って立ち上がれば、「やっと起きたか阿呆当主」と彼に溜息をつかれた。 溜息をつきたいのはこっちだ、と苑も深く息を吐き、己の机に向かう。 「おい、何してんだ苑」 「ちょっとやってみたいことがあるんだ」 ぼさぼさの髪をさらにぼさぼさにするように掻き上げ、苑は机の上に黒い紙を置く。後ろから覗き込めば、そこには南蛮の文字が描かれていた。 「…おい、苑」 苑は微笑み、振り返る。その目は子供のように爛々と輝いていた。 「最近知り合った南蛮の人に教わったおまじないを実践したくてね!」 2014.11.20 (Thu) 22:49 back |