::枯草の詞づくり ペンを置き、ううんと伸びをする。窓の外を見ると、随分と日が傾いているのに気付いた。確か、執筆に入った頃にはまだ太陽は窓枠の外にあったはずだ。 橙色に照らされる空を見つめていると、黒い影がよぎった。彼は椅子から立ち上がり、窓辺に立ってその影を目で追う。 …鴉だ。ちょうど沈む太陽に向かって飛んでいく姿に、思わずその枯草色の目を細める。…あれは、あの鴉はこれからどこに行くのだろう。ふと生じた疑問。 ……あ、何か書けそう。 思い立ってすぐに彼はもう一度椅子に座り、ペンを握ってノートを開く。 …鴉。どこに向かって行くのだろう。ゴミ捨て場だろうか。その黒い嘴で袋を割いて、今宵の晩餐を漁るのだろうか。あぁ、いい、調子がいい。だんだん筆が乗ってきた。 …鴉。どこに向かって行くのだろう。番いの元だろうか。…番い。 …番い。あの鴉がオスだとして、メスのところに飛んで行くとして。そのメスはオスにとっての番いで、求愛の果てに結ばれた番いなのだろうけど。 ……あ、なんか胸が痛い。 ペンを置き、傍らの携帯電話を取る。電話帳から慣れ親しんだ番号を選んで、コール。しばらくの呼び出し音ののち、快活な声が向こうから聞こえた。 「…いきなりごめん。会いたくなった」 2017.11.10 (Fri) 18:37 back |