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::染の覚書

真昼にも関わらず、空はどんよりと曇っていた。染葉古染は与えられた自室の障子を閉めて溜息をついた。首にかかる自分の髪がくすぐったい。切ろうかと考えたことがないわけではないが、どうにも踏ん切りがつかない。急いで切る予定もないしまぁいいか。と、自分の中でいつも完結してしまう。鬱陶しいならまとめておけばいい。今しがたそう思って自分の髪の束を掴んだ時だった。

「染葉」

障子の向こうから聞こえたくぐもった声に、染葉の手の力が緩む。髪がさらさらと彼の首元にかかる。返事はしない。しばらくして聞こえたのは、障子が開く音。

「いた」

畳を擦るような音が背後まで近付く。そして、彼女はそのまま染葉の背中にぴとりと寄り添った。染葉は顔を顰め、舌打ちをする。

「くっつくな、うぜぇ」

しかし、無理に引き離すようなことはしない。彼女はそのまま染葉の背中をまさぐって、彼の首筋に顔を埋める。彼女の吐息が染葉の髪を揺らす。

「染葉」

「あ?」

「今日、髪、さらさらしてる」

珊瑚のような淡い桃色の毛先を指で遊びながら、彼女は呟く。いつもはうねる毛先が今日はまっすぐに艶めいている。湿気を含むと何故かこうなるのだ。

「…雨降るね」

彼女はそのまま染葉の腰に腕を回す。お気に入りのぬいぐるみを抱きかかえるような仕草に他意はない。すっかり慣れた。染葉は小さく息を吐き、少しだけ背中に体重を預ける。

「…あぁ」




 

2016.10.11 (Tue) 22:37


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