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::戦と暗闇の神

寂れた神社を前にして、風紋は立ち止まる。鳥居の朱はすっかりくすんで見えて、ところどころ剥げてさえいた。風紋はいつもと変わらぬ微笑を口元にたたえ、鳥居をくぐる。

「いらっしゃい」

程なくして風紋の目の前に現れたのは襤褸い神殿。そしてその神殿の入口に腰掛ける黒い着物の男が風紋に声をかける。

「ご無沙汰しています、雄曙(たけのあける)」

「視える奴にその名前で呼ばれるのはいけ好かないんですけど?」

風紋は笑みを絶やすことなく、男の隣に腰掛ける。男も口角をわずかに歪め、風紋に手を差し出した。

「ん」

「どうかなさいましたか、雄曙」

「しらばっくれないでください」

ゆったりとした動作で首を傾げる風紋に、男は小さく舌打ちを見舞う。「そんなに苛つかないでください」と風紋は笑いながら、ジャケットの胸ポケットから札を取り出し男に差し出した。

「今回もお世話になりました」

男は渋々といった様子で札を受け取り、指先で文字をなぞる。

「…食えないですね、お前って奴は。こうしてちゃんと御礼参りに来なければぶっ殺してるところです」

「御礼参りに来ない者は物理的にも社会的にも罰せられるとうかがったもので」

「来なくていいですからさっさとくたばれ」

「くたばりたくないのでこれからも来ますね」

言いながら、風紋は男に手を差し出す。男の眉根がぴくりと動く。

「今後一ヶ月、仕事が立て込んでましてね。新しい御札をいただけないかと思いまして」

風紋の笑みは崩れない。男の笑みは、崩れた。

「……テメェそろそろ本気で死ね!」

柔らかく細められていた目を見開いて、男は風紋に札を叩きつける。風紋が札を掴んで顔を上げると、男の姿はなかった。

「罰してやるから、もう二度と来るンじゃねェ!」

声だけが、静かな境内に響く。風紋が札を見下ろせば、札に書かれた文字が心なしか赤く発光していた。風紋は笑みを深め、虚空を仰ぐ。

「…ありがとうございます。イグレ殿」

赤い光が、激しくちらついた。

 

2015.10.03 (Sat) 22:10


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