::端正 何を思うでもなく、ただ気だるげに首を巡らせて、彼は自分の部屋を見渡した。 壁にかけられたホワイトボードには特に何も書かれていない。ホワイトボードの下には水色のペンキがべた塗りされた本棚。たくさんの本やファイルとともに、何かしらの機器も置かれている。今でこそ整理されているが、使う場となればすぐに散らかされることだろう。 ローソファを覆う赤い布はくすんだ色をしていて、お世辞にも鮮やかとは言えなかった。しかし目に入れても痛くないその色は、壁際にあらゆるものを寄せてぽっかりと空いた部屋の中心においては大きな存在感を示していた。 彼はまた首を動かし、目の前のノートパソコンの画面に向かう。暗い部屋に、画面の明かりがまぶしい。 ネット上に氾濫する情報の文字列を追う。しかしその目の動きは流れるようで、大して内容を吟味していないさまを窺い知ることができた。 「雅」 ふと、肩にふわりとやわらかさが舞い降りた。肩越しに振り返れば、暗い部屋の中で浮き上がって見える白があった。 「風邪を引くよ、雅」 肩に降りたそれに指先を乗せ、彼は口元にわずかな笑みを見せる。分かってるよ、つぶやくように言い、ノートパソコンを閉じた。 2015.03.19 (Thu) 11:18 back |