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::光なんてない

不意に、息苦しくなった。
何かに喉を絞め上げられているような、そんな感覚。思わず喉元を掻き毟るが、そこには何もない。ただひたすら苦しい。

「ッ……はぁ…!」

何とか息を吐き出し、新鮮な空気を吸い込む。苦しかったのは収まったが、喉を圧迫された後の鈍痛にも似た衝撃は未だに残っている。

「……クッソ」

立ち上がり、部屋に備え付けられたシャワールームに向かう。服を脱ぐことさえ億劫で、そのまま蛇口をひねった。ふと顔を上げると、鏡に映る自分と目が合う。濡れた髪が貼りついた首には、青紫の痣が蛇のようにのたくっている。その痣をなぞり、彼は項垂れた。ぬるま湯が頬を伝い、鼻先から滴る。濡れたシャツが肌に貼りついて気持ち悪い。それでも、動く気にはなれなかった。ちっ、と小さく舌打ちしても、誰も聞いてはいない。

ぞわり、と首の痣が蠢いた気がした。
 

2015.02.12 (Thu) 08:24


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