::千代に八千代に咲き誇れ 「兄さん!」 久しぶりに実家の屋敷に戻ってくると、少女が紺色のブレザーの裾と暗いピンク色のチェックのスカートを翻して刹那に抱きついた。 「ただいま、八千代」 「ふふ、おかえりなさい、兄さん!」 刹那の妹である八千代は、自分より背の高い兄を見上げて微笑んだ。彼女の左目の下にある泣き黒子が、少女の中に女を見出している。 「また少し、髪の毛伸びた?」 「そうかしら?」 「うん。相変わらず綺麗な髪だよ。母さん譲りだね」 「兄さんの髪も母様譲りでしょ?」 「ふふ、そうだね。二人とも、父さんの要素をもらってないんだもんね」 「あら、兄さんは男でしょう?父様譲りだわ!」 「あっ、そっか」 八千代の言葉に、刹那は苦笑する。八千代は、本当に聡明な妹だと思う。穢れを知らない。花はいつか枯れてしまう。だから八千代は、花の名を背負うことをやめた荊華院だ。枯れることなく千代に八千代に美しく在り続ける荊華院だ。 「八千代」 八千代に導かれるまま、広間のソファに腰掛ける。向かいに八千代が座ったのを見て、刹那は笑みをこぼした。 「僕の大事な妹」 少しだけ彼女は目を見開き、照れたように唇を尖らせて目を逸らす。しかしその口元が緩み、花が綻ぶように笑った。 「大好きよ、兄さん!」 2014.12.08 (Mon) 21:49 back |