SS | ナノ






::第三者機関

正直に言おう、何が起こったのかさっぱり分からない。
そんな言葉を声に出さず、ただ流沙は血まみれのまま立ち尽くしていた。いつも通り、ナイフで裂いた左手首から溢れる血で標的を屠っていく。しかし、明らかに今日は様子がおかしかった。…一言で言えば、"絶好調"だったのだ。

「ふふふー」

流沙の背後から笑い声がした。少女の声だった。
…そうだ、彼女はいきなり戦場に乱入してきて、流沙の血に濡れていない右手を取った。唐突すぎて振り返ろうとしたところで、「前向いて」と妙に威圧感のある声で指示された。

「君の血液循環と血液精製速度を進化させてもらうね!」

いきなり見ず知らずの少女に血液云々のことを言われ、頭の整理をつけようとしたその瞬間。
少女の手の温もりから、言い知れない衝撃を感じた。すると、手首から血が噴水のように噴き出した。いつもなら、腕を振り回す遠心力で血をばら撒いていたのに。しかも、血の量が半端ではないというのに、少しも貧血にならなかった。

「はい、お疲れ様、流沙くん!」

少女は流沙の手を離し、彼の前に躍り出る。茶色い髪に紫の目、男物のワイシャツにループタイ、その上から丈の長いスーツのようなジャケットを羽織っていた。歳の頃は流沙と同じか、少し上くらいだろうか。

「……あの、どちらさまで、」

彼女に触れられたことで、能力の効率が良くなった。サポートタイプの能力を持つ新たな神見愛者か、そう冷静に考えてはみるが、彼女は微笑んで首を傾けた。

「私は鳳ラミっていいます!神見愛者さんたちのお手伝いをさせていただく第三者機関の者ですー!」

「…第三者機関?」

「と言っても私一人なんだけどね!」

第三者、ということは、神見愛者ではない。では、あの妙な力は何なのだろう。そこで脳裏をよぎったのは、愛しい恋人の家の不思議な従者達。まさか目の前のこの少女…鳳ラミは人間ではないのか。

「あ、ちなみにただの人間だから、いきなり心臓刺すのはなしだよ?ぶっちゃけさっきも君の血がついちゃったらどうしようってそればっか考えてたんだから」

頬を膨らませるラミに、流沙ははぁ、と溜息をつく。組織に絡む第三者機関ということは、兄が何かしら知っているだろう。戻って話を聞けばいいだけのことだ。

「ふふふー、天下の美少女薔薇戦争ちゃんに会うの楽しみだなぁー!」

…どうやら組織のビルまで一緒に来るらしいのは、また別の話。



 

2014.11.27 (Thu) 21:28


back


prevtopnext