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::荊の華

「鬼であり華である我が子らよ」

芭蕉の鬼女が声を上げれば、糸目の男が気怠げに首を巡らせる。

「鬼であり華である俺だが、俺より下は化け物も混じってんぜ?」

木の男が嘲笑えば、小柄な青年が長い横髪を耳にかける。

「いろんなものが混ざりすぎた。故に、僕は朽ちた季節を生み出しました。華として美しく在る為に」

鈴蘭の青年が目を伏せれば、にやつく男が笑みを深める。

「美しけりゃいいんだよ。たとえそれが化け物でもな」

実の男が口元を覆えば、同じ顔をした男女が眉を顰める。

「よく言うよこの糞親父が」
「早急に死ね、あっ、死んでる」

茉莉の男女がお互いの肩を抱けば、穏やかそうな男がすうと目を細める。

「死ねなんてそんな容易く言わないでおくれ。私のように、死にたくて死んだわけじゃない者もいる」

苑の男が着物の裾を翻せば、艶めかしい女が唇をなぞる。

「あら、わたくしは西洋の獅子殿を愛して死ねて幸福ですわ」

藤の女が指を舐めれば、寝癖頭の男が欠伸を漏らす。

「まぁ、派手なことをしすぎたら俺や苑のように殺されるということだ」

蓬の男が頭を掻けば、足の悪い青年が杖を突く。

「弱体化したこの家は、私が建て直したようなものですよ…」

薊の青年が溜息をつけば、学生服の青年が肩を落とす。

「…随分と、世の中も落ち着いてきたところです」

菫の青年が俯けば、吊り目の女が手を叩く。

「日本自体が死にかけたが、まぁ、生き永らえた。世の中なんてそんなもんだ」

葉の女が足を組めば、柔らかい雰囲気を纏う少女が頬を膨らませる。

「戦後の混乱を越えれば、待っていたのは安寧だ。そしてお前は、その安寧の中で咲き誇る」

蓮の少女が指を鳴らせば、隻眼の少女が息を飲む。

「……鬼であり華であり…化け物である、我が先祖たち」

「お主もじゃ、薔子」

薔薇の少女の目の前に、芭蕉の少女が踊り出る。そして薔薇の?に手を寄せ、にやりと笑う。

「我らの血がお主にも流れておる。お主も鬼じゃ、お主も化け物じゃ」

美しい華には荊があるのじゃ。





 

2014.11.08 (Sat) 00:02


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