::藤の盲信 「将軍様にお届け下さいまし」 藤祢は書状を遣いの者に託し、着物の裾を翻してその場を後にする。その後に続くのは、屋内であるにもかかわらず笠を被った男とも女ともつかぬ者と、憂いるように目を細める少女。 「最近、幕府からの援助の要請が増えましたねぇ」 「…そろそろ、幕府も自分の足で立つのが厳しい頃合いなのでしょうか」 藤祢の後ろでそんなことを話すふたり。すると藤祢は足を止め、勢い良く振り返った。その顔には、怒りが滲んでいる。 「あなた方……将軍様の幕府が滅亡するとでも仰りたいのですか?」 藤祢の目にたじろぐように、笠を被ったそれは笠を外して頭を垂れる。顔を上げたそれの額には、鬼のような二本の角が生えていた。 「申し訳ありません藤祢さまぁ。そんなつもりで言ったんじゃないんですよぉ」 「…ならば、良いのです」 再び歩き出す藤祢。鬼と少女は目を合わせ、やれやれといった風について歩く。 「…幕府が台頭する武士の時代こそが、平和と安寧の時代なのです」 愛されることを知らない当主の、幕府への盲信。それがいつか、破滅を導かなければ良いのだけれど。鬼はそんなことを考えながら、「そうだといいですねぇ」と口にせず呟いた。 2014.11.04 (Tue) 09:09 back |