相馬は、ゆっくり濔音に近付き濔音の胸ぐらを掴む。 
「殺人鬼は、死あるのみだな」
ふっと、濔音は微笑して目を瞑った。
ー諦めたのか?そういえば、この女さっきから殺意は無い。やられっぱなしだ。本当にこの少女‥紫木月か?
どっちにしろ死ぬべきだ。
相馬は、殴ろうとした瞬間(とき)。相馬の手首は切れ、地面に落ちた。血が噴き出た。
「!うあああああああ!」
相馬は余りの痛さに呻き腕を抑えながら手首をとろうとした。
だが、動けない。
透明な何かに首を締められている。
何にだ?

ー糸?

「糸は一見柔らかい。だけど、ピンっと貼るとこれが、相手を殺す凶器でもなるんだよな。ゲハハ。まあ、俺の特性の糸じゃないと、手首なんざ斬れないんだけど」 

この声の持ち主に、糸で首を締められているのだ。絞殺か斬首にされる。ー殺される。頭に過った。

「お‥ま‥えは?」
「紫木月 愛曲。」

「!?きょくと‥いや、愛曲(あいきょく)、彼を離してあげて」
「みー!会いたかった。‥分かったー、離す」

愛曲と呼ばれた少年は渋々相馬を離した。相馬はひざまつき無くなった手首を押さえる。ーくそ、早く早く止血しないと。
愛曲は、見下ろしていたが相馬の目線と同じ高さに座って、無くなった腕をもち、相馬の手首を縫合しはじめた。「!?」相馬は、驚いて動こうとするが動けない。代わりに口を動かした。

「ーなぜ一度切り落とした手首を繋げている?殺せばいいだろ?」

「俺、お前のこと大大っ嫌いだから殺せねぇんだよ」

愛曲は、縫合し終わったら、立ち上がり相馬を見下して殺気を放ちながら睨んだ。殺気は、大の大人でも動けないほどだ。相馬は思った。ーああ、やっぱり紫木月は殺人鬼だ。出来損ないの殺人鬼だ。憎む相手を殺せない殺人鬼だなんて。

「殺す価値もない」


愛曲がそう呟いたのを濔音には聞こえた。ー愛曲が、人間を全否定するのも珍しい。人を殺せないほど、相当怒っているな。なのに、嫌いな相手を縫合するなんて。
濔音は、苦笑した。
ー我ながら、変な表現だ。普通は、怒りに狂って人を殺す。それが本来の説明の仕方。けど、僕達紫木月は愛に狂って人を殺す。出来損ないの殺人鬼だ。でもまあ、何も縫合までする必要はないんだけど。
愛曲。君に会いたかったよ。
そして、「愛曲」と名乗っている君に同時に会いたくもなかったよ。
ー曲斗。どうしてここへ来たんだ?
曲斗。どうして僕を捜しに来た?
聞きたいけど今は聞かないよ。



曲斗は、濔音に近付いた時、頬が切れた。鎌鼬だ。
曲斗が後ろを振り返った。相馬から坊ちゃんと呼ばれた青年が、濔音の暗器から逃れ、曲斗に攻撃したのだ。どうやら、腕が復活がした相馬が助けたのだ。曲斗は、助けるんじゃなかったな。手早いなぁとか思いながら濔音を持ち上げて
「ゲハハ。鎌鼬と糸だったら相性悪いんだよなー。」
曲斗が経口を叩くと青年は名乗った。
「そうだ!殺人鬼!この鎌鼬で糸を切ってやる!この時宮真実(ときみや みのる)がお前等を倒す!」
真実は、鎌を振りかざす。愛曲は鎌鼬を避け時宮真実の死角になる壁際に隠れた。濔音の顔色を見る。顔が真っ青で汗が滝のように流れている。身体は傷だらけだ。いつも愛着している鴉色の外套は破れている。トップスもインナーも破けている。酷い有様だ。

「みー。だだだ大丈夫ゲハか?!?やんべー。みーがこんな怪我してたら兄ちゃんや姉ちゃん達俺みたいに怒るぞ。げはは。みーがけがするなんてあいつ強いのか?」
「あの子は、時宮だ。殺傷力は(鵲相馬くんより)低いけど結界を張っている可能性がある。‥それと僕のことは気にしないで。大した傷じゃないから。それにお兄ちゃんやお姉ちゃん達に言わなければ大丈夫だろ。第一、僕四、五年前から家出している身なのに‥大丈夫だよ。うん。見つからないね」

「どうかな‥俺、何も言わず本家飛び出して来たもん」

「‥‥‥‥‥え」

「朝起きたら本家のベッドにいてさ。まあ、絹先に行ったら理由分かったけど。きっと兄ちゃん達、心配して俺を捜してんじゃねーゲハかな?ゲハハ」

「‥‥うわー。本家大変なことになっているんじゃあないかい?ははは。笑っている場合じゃないねー。僕もお兄ちゃん達に見つかったら強制送還される。嫌だな」

「あたりまえゲハよ。一回帰って南館の姉ちゃん達に治療してもらえばいいゲハよ」

「ん?やっぱり怒っているのかい?曲斗くんじゃなくて愛曲くん」

「あたーまー(当たり前)だ。おまーのそんな顔初めて見たゲハよ。」
曲斗は、濔音を優しく頭を撫でて時宮真実の攻撃を逃れるために隠れるように逃げる。鎌鼬の攻撃は一向にやまない。
雨も酷くなるばかりだ。


「ちゃんとつかまっとけよ?とっきー(時宮)をギャフンと言わせる助っ人マンがもうすぐくるゲッハーよ」
「助っ人マン?」
「げはは。だからもうちょっと我慢してくれなー。痛いだろーけど。俺がもうみーが痛くないように護るからなーゲハハ。うん、だから。今の内。隠れている時に泣けよ。痛かったんだろ」

曲斗は笑った。


「体じゃなくここが」

曲斗は、濔音の胸を叩く。

雨はずっと降り続いている。
現状は何も代わっていない。
けど濔音は胸に熱いものがこみあがっていた。

ーああ、だから君に会いたくなかったんだ。だって君に会っちゃったら安心しちゃうじゃないか‥。ああ。君に本当に会いたくなかったよ。君は、僕の気持ちをいち早く気付くから。だから、泣きたくなるんだ。
僕をほっといて。お願いだから。優しくしないで‥。
やっとあの怪盗から逃れたのに。
今度は君が僕を‥





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