***


「夕暮か」
「嶋津警部。遅くなって申し訳ありません」
「いや、いい。こいつが合間の死体だ」
布で顔を隠れているので、夕暮は布を外した。
合間だ。正真正銘の誰よりも尊敬し、憧れていた合間嗄荳だ。合間は、目を瞑っている。死んだとは思えないほど安らかに眠っている。夕暮は手を合わせた。そして、死体を調べだした。嶋津警部から、事前には聞いていたが、これほど鮮やかに心臓をひとつきで殺せるとは…合間を殺害した人物は相当の手練れだ。凶器は現場にはない。合間は、スーツを着て仰向けに寝ている。なのに、ズボンの膝は、灰だらけになっている。ー仰向けなのに?殺人現場に残された形跡があるのは、靴跡くらいだ。しかし、合間の周りには靴跡は無い。綺麗に叩かれている。この靴跡を調べると何か出てくるかもしれない。再び夕暮は、合間を見る。

「殺された。というより、永遠の眠りについたように安らかに眠っているように見えるのは僕だけですか?嶋津警部」

「夕暮、正気か?」

「えぇ。僕は正気です。いや、正気では無いのかもしれません。合間さんが殺されて発狂でもしたい気分ですが、この死体を見ても何故か憤慨しない。…変ですね」

「それは、異常だ。俺は、こいつを殺した犯人をとっ捕まえたい。この死体を見て何か分かったか?」
嶋津警部は、ポケットから煙草をとり出して吸い出す。感情を抑えるため嶋津警部は、煙草を吸うことがある。よほど、取り乱すのを抑えているのか。ーあたり前だ。嶋津警部と合間嗄荳との関係は親友だ。怒るのも無理はない。しかし、どうして嶋津警部は合間の携帯電話を持っていたのか。夕暮は、後で聞くことにし、話を続ける。

「ふむ。死体を検証してみました。死亡推定時刻によると19時から20時の間。その時間は、合間さんが仕事を終えて車で家に帰ってきた時間帯。…まあ、仕事が休みだったら分かりませんので仕事場に確認をとってからではないと断定出来ませんが。『とりあえず仕事を終えて帰ってきた後』と仮定しましょう。」
「合間の会社は、確か高槻にあるIT関係の会社だったな」
「そうです。ITlogという会社で働いていました。…」
二年前から。合間が交通事故にあってから、探偵の職業を辞め高槻市の会社に勤めた。…あの交通事故から…。

「高槻から絹先までの距離は、約一時間なので死亡推定時刻と一致します。
多分、合間さんは仕事から帰ってきてこの酷い惨状を見て嘆いている時に、何者かによって刺殺されたのでしょう。
ここで注目するのは、ここから数m先に足跡が二つあります」
夕暮は、ポケットから巻尺をとって巻尺で測る。小さい靴跡とサンダルの靴跡があった。
「そんなところに足跡があったのか。」
嶋津警部が見落とすのも無理はない。現場を検証したのは夜だったし、合間の死体より少し離れている。何より殺人現場事態が異様な光景だ。そちらに気を取られ、見落とすのは普通だ。
夕暮は、思考を足跡に戻し足跡を続ける。
 「はい。大体19.5cm…と大体サンダルのサイズ27から29cmくらいでしょう。
サンダルのサイズから見て男でしょう。しかし、約19.5cmは…子どもですね…ん?」
何かが土に突き刺さった跡がある。夕暮は、ポケットから虫眼鏡を取り出す。
「ということは、男が犯人だな。女?子どもが犯人なわけないだろ。どうやって、子どもが合間を殺せる。身長差がありすぎる」
嶋津の話に返事をせず、それを見ている。太陽が隠れポツポツと雨が降り始める。枯れた大地に、天が涙したような冷たい雨だ。
夕暮は何も喋らず、その突き刺さった穴を見ている。得物は、刃物だろう。それは、深く突き刺ささったと思われるほどしっかり跡として残っていた。夕暮は、疑問に感じた。その穴は、どちらかといえば、サンダルの足跡の指先の部分に近い。ということはー…。

「…。どっちにしろここでは犯人が誰かは特定出来ません。もしかすると、犯人は、男ではなく、子どもの可能性もあります」

「なぜだ?」

「どうして子どもが、焼け野原になった場所にいるんですか?生き延びた可能性もあるかもしれませんが。まず、この光景を見て生き延びたという線は無いに等しい。
また、電車やバスなどを使ってここへ来るのは不可能でしょう。何しろ焼けた場所には、何も機能していませんから。もちろん、車の免許もとれているはずはない。車の免許をとれる年齢ではありません。じゃあ、どうやってこの場所へ訪れることが出来るんでしょうか。

そして、後回しになって申し訳ありません。合間さんが、ひざまついて呆然としているところに犯人と遭遇したら?犯人が合間さんを抱きしめて殺したら?身長差はカバーできますよ。嶋津警部」


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