気が付くと濔音は、路地裏のゴミ捨て場に寝転んでいた。
もう、朝みたいだ。車の音。人の声。歩く音。全て耳につく。

ああ。生きてたのか…

普通なら、高層マンションから落ちたら死ぬはずなのに死ななかったのは、紫木月が普通の体質ではないからだろう。濔音も死ぬつもりは無かったので、受け身をとりながらゴミの山に落ちるようにしたのだ。とはいえ、全身骨折をしているし、さっきまで気を失っていた。身体中痛くて死にそうだ。肋骨背骨脊髄。どこもかしこも折れてるだろう。なのに生きてる。
生きていた。あのマンションの46階から落ちたというのに…。
聳えたつマンションよりずっと遠いかった太陽が雲に覆われた。次第に雨が降り、雨が濔音の頬を受けつける。今日は、生憎の雨だ。

ーああ、冷たいなぁ。もう一層この
まま死のうかな…

濔音は、唇をかしめた。絶対にそんな感情を口に出してはいけない。死んで罪を償おうなんてけっして言っちゃだめだ。
とはいえ、このまま誰にも見つからずにゴミ捨て場にいたら確実に死ぬだろう。かと言って黒斗には見つかりたくないし、誰にも会いたくない。

ーなら僕は死ぬのだろうか。
…死んだら、合間さんに会えるのかな?そしたら、合間さんに謝って、もう一度合間さんと…。

はっとする。
「馬鹿だな。僕は…。そんなことを考えるな。感傷に浸るなんて僕の悪い癖だな。うん。うっとおしいったらありゃしない。僕の場合は、そんな感傷に浸るような立ち位置では無いのに。自業自得だ。ー動けよ。体…動けって」

濔音は、つい言葉を出して自分を叱咤する。
ー罪人なんだから、罪人らしく振る舞え。そうしていたじゃないか。
あの怪盗の前でもしていたじゃないかい。
苦笑した。
身体を動かそうとしたが動かせない。雨は強くなるばかりだ。ここにずっといるわけには行かない。分かってはいる。殺人鬼一家である紫木月を狙う者は沢山いる。その中で唯一紫木月を殺すことが出来る資格や能力を持っている家系がいる。それが、黄川日家だ。黄川日は、紫木月濔音が人を殺したと知れば黙ってはいない。濔音を殺しにくる。この世は、表裏一体で、紫木月が悪とすれば黄川日は、善だろう。黄川日が果たして善かどうかは分からない。だけど、黄川日を無断で名乗って、紫木月を殺そうという輩よりはマシだ。そういう輩は、ハンターと呼ばれている。黄川日に殺されるのは、運命だから仕方ない。でも、ハンターに殺されるのはごめんだな。いや、黄川日もごめんだ。死にたくない。

ー。唯一殺されてもいいのは、合間さんの片腕だった彼だけだ。黄川日の長男であり、誰よりも合間
さんを敬愛し尊敬していた人物。

黄川日 夕暮。

黄川日 夕暮だったら
僕は殺されても構わない。



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