「今聞くなよな、KYだぜ。KY。あー。やる気失せた」「嘘、本当は最初から抱く気なかった癖に。12才の女を抱くなんてどうかしてる」
自由になったはずなのに、濔音は隣で寝転んでいる。それどころか、ルビーのような赤色の布団を自分にかけ寝る体制を整えている。警戒心が無さすぎて呆気にとられ、黒斗は思わず濔音に聞いた。
「…。どうしてそう思う?」
すると、濔音は布団から黒斗に上目遣いで微笑して言った。
「性欲だけで僕を拉致するんだったら車の中でヤれたはずだろ。それなのに紫木月だと知ってわざわざ自分の家へ連れて行くなんて自殺行為だ。ということは、僕をとらえたのは何か理由があるはずだろ。」
紫木月は、愛した者を殺す性質だ。その殺人鬼にわざわざ自分の家へ連れて行くということは、自分のことを知らせるということだ。
「ほう?喩えば?」
「喩えば、僕の瞳は珍しいからオークションに売られるとか。それとも、自分の片眼にするか。もしくは、君の瞳を探す手伝いをさせるか。とか?」
濔音は、微笑して黒斗の眼帯を触れた。しかし、すぐに手を止め引っ込めた。ーー。ああ、こいつは。賢い女だ。俺の左目がないことに気付き確信したか。今、手で確かめた。しかし、馬鹿な女だ。俺にとってお前の存在価値は初めて会った…見た時から大きいのに。そんな奴には意地悪をしてやろうか。

「くっくっ…。はは。こりゃまた、想像力豊かなお嬢さんだ。感服するぜ。お前を盗んだのは、単にお前のことが気に入ったからだ。オークションに売る気もなければ、片眼にする気も無ぇよ」
「…それだけかい?」
「そう、それだけだ。」
「意味が分からない…いずれ僕に殺されるよ」
「別に構わねぇよ。お前に殺された合間って奴が羨ましい」
濔音の顔が翳る。
「分からないね。僕のことをよく分かっていないのになぜ気に入ることが出来るんだい?」
「お前は、なぜ俺が怪盗をしていると思う?」
「それは、僕の質問だったはずだ」
「いいから、答えろよ」
「…眼帯をしている方…左眼を探してる…とか?」
黒斗は笑う。
「なぜ、そう思う?」
「なぜって…そうだねぇ。僕はさっき冗談で『君の瞳を探す手伝いをさせるとか』と聞いたのに否定しなかったからかな。」
黒斗は、それを聞いて腹をかかえ声を出し笑いころげた。ービンゴだ。
濔音はそれを見て目を丸くする。濔音は、どうしていいのか分からず困って自分の回答に不安になっていく。
「むむ、なんだい。違うのかい?」
「いーや。正解だ。紫木月濔音。よく、俺の左眼が無いってよく分かったな。ものもらいしているか、ただのファッションの可能性だってあるだろーに。」
「…ものもらい…?ああ。麦粒腫や霰粒腫といった目の病気だよね。
もしその症状になっていたら、その革の眼帯とった方がいいね。蒸れそうだし。本来なら重症ではないかぎり普通の眼帯だってつけない方がいいんだよ。視力低下に繋がるからね。まあ君は、博識だと思うからそんな真似はしないだろうね。よって、ものもらいではないかな。後ファッション?ファッションの可能性か…単に考えてなかったな。それに…」
黒斗は、濔音の話を遮るかのように眼帯をはずした。案の定、濔音は目を見開き言葉を失った。左目がない。目玉がない。まるで抉られているかのようにそれはなかった。
「さっき、お前俺の眼帯を触っただろ?その時、違和感を感じたんじゃねえのか?だから、その台詞が出たんじゃねえか?ははは」
濔音は、苦笑した。
「なんだい気付いていたのか。黒白黒斗くん。君は、意地悪だね。さっき僕がした行動を読み取っていながらそんな質問をするなんて」
「動機不十分なんだよ。「目玉を探すために怪盗してますー」なんて格好悪くてできるか、普通」
「成程、だからカモフラージュのためにその高価な物を盗んでたわけね」
黒斗の装飾品は、すべて大富豪とも呼ばれる人達の宝石や財宝だ。
「お邪魔するなら、頂くのが筋だろ」
鼻歌混じりで、黒斗は言った。濔音は、心の内でこいつも人間失格だと呟いた。
「僕寝るよ。君と喋っていたら本末転倒して会話にならない。性格が曲がっていて質の悪い人間は僕だけで十分さ。」
人を愛しすぎて人を殺すなんて。変な動機だ。これこそ動機不十分ではないか。濔音は、布団に潜り眠れないと分かっていても目をとじた。目を閉じて思い出すのは、合間の死に様。血と肉の感触。丁度この布団のように、血は赤くて生あたたかった。濔音は自分の犯した罪を鮮明に思い出す。生まれた時から、人の道を外している自分は自首して罪を償うことも死んで罪を償うことなど出来ない。自分にできることはなんだろう。そう思った矢先黒斗は呟いた。

「確かにお前は、性格ひん曲がってるけど、お前以上に純粋な奴はいねぇな」

「…?」


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