『ああ。大物歌手アントワネット・グランチェのサングラスが盗まれた。
予告状は無かったがメッセージカードがあったらしい。
ほら、書物でよく怪盗が名を残して去るだろ。あれだあれ。『ーを盗んだ。怪盗●●』ってやつ。』
「予告状が無いのにメッセージカードがある?それもおかしな話ですね。その怪盗の他に共犯者がいるかもしれません。怪盗の名は?」
『そいつの名は…』

「…ホワイトベアだぁ?」
同時刻。高速道路を走るオニキスブルーのBMW。その車の運転席で、黒白黒斗は、絹先町で起きた事件の当事者である殺人鬼に呆れた声で言った。
「おいおい。他にいい名前は無かったのかよ濔音。メッセージカードに名前を残すんだったらアルセーヌ・ルパンか怪人二十面相みたいな格好いい名前にしろよ」
殺人鬼、紫木月濔音は、シートベルトをつけず助手席に座っている。彼女は、車が気に入らないのか車内が気持ち悪いのか知らないがずっと不機嫌な顔をして窓の外を見ている。車内に入ってから、黒斗に顔を見せなかった。

「だったら、愛車をフィアットにするかメルセデス・ベンツにしろよ。なんで、BMWなんだい?それに、君は他の怪盗のアイデンティティーをパクりたくなかったんじゃなかったのかい、黒白黒斗くん?」
「喩えで言っているんだ。つーか、フィアットとメルセデスなんてアニメのルパンの愛車じゃねぇか」
「よく知ってるね。白のハングライダーでも良かったんだよ?」
「あのな、俺はキッドじゃねぇ」
「大体、いたいげな12才の女の子を拉致して、盗みの手伝いをさせるなんてどうかしているよ。これじゃあ、僕二重犯罪者じゃない」
「よくいうぜ。ノリノリで『サングラスは頂いた!』ってメッセージカードに書いていた癖に。ほら、シートベルトつけろよ。警察に捕まるぞ」
「いっそのこと、警察に捕まって死刑になって地獄に落ちるほうが理想的で魅力的だよ」
結局彼女は、シートベルトをつけなかった。それどころか、ずっと顔を背けたままだ。ー気に入らねぇな。そう思い黒斗は、車のスピードをあげた。黒斗は、高槻市のインターチェンジで高速道路から降り、真っ直ぐ国道線を走ること10分。高く聳え立つビル。高級マンションが立ち並ぶ住宅街を通る。夜中なので、車は少ないがスピードをあげている。流石の濔音も黒斗を見て声をあげる。
「ちょっ…」
「…ファーストキスしかしたことのないガキが檻で一生暮らすより、イケメンに盗まれるほうがよっぽど理想的で魅力的だろ」
「…ファーストキスじゃなくてセカンドだよ。あのキスは」

高級マンションの駐車場についた。黒斗は、車を頭から突っ込み乱暴に車を止めた、濔音の顎を持つ。頬を触り顔を近づけて言った。
「たった2回だけのキスで威張んなよ、濔音。それよりさっきの盗み鮮やかだったぜ」濔音は、黒斗の顔をパチンとたたいてまた顔をそらす。「いっ…いてぇ」
「近いよ。それより、折角僕が大物歌手アントワネット・グランチェの高価なサングラスを盗ってきたんだ。僕の…いや、合間さんのサングラスを返しなよ」
黒斗は、苦笑する。ったくこの殺人鬼は。殺した相手のことしか考えていない。黒斗は、濔音の顔を自分に向けアントワネットのサングラスをかけようとした。
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