焼けた土地には、何も残らない。何の機能も持たない。在るのは死体の悪臭と焼けた異臭だけ。此所にいるだけ時間の無駄だ。濔音は、暁色の月を背にし歩き出した。束の間、足を止める。警戒な足音と軽快な拍手が耳に入ってくる。焼けて何もかも無くなった土地に似合わない音だ。濔音は、来た道を振り返った。何もない地に合間の死体。死体の隣りに自分より背の高い人の形をした月影が伸びている。誰だ?と濔音は目を凝らしてみても、サングラスをかけているのではっきりとは分からなかった。濔音は、サングラスを外すことはしたくなかった。顔を見られたくないからだ。しかし、濔音は奇怪な音をもたらした正体不明の人間に、興味をもった。殺人鬼に拍手を送る奴は何者なのだろうか。話してみるのも悪くはない。ただ、話の主導権を相手に渡すと質問攻めになるだろうから。話の主導権は僕が握ろうかー…濔音はフッと笑った。


「暁色の月の夜を舞台に拍手とは気が利いているお客様だね。それとも、アンコールかい?しかし残念ながらアンコールを送っても演出は無いんだよ。何しろ役者はもういない。もう全ての舞台は幕を閉じた。お客様はお帰りの時間だよ?」



濔音は、柔らかく笑って言った。威嚇ではない。脅しでもない。挑発でもなかった。ただの興味本意。この人は、どういう反応をしてくるかとても気になっていた。相手の拍手が止まった。相手は濔音に近付いてくる。相手と自分の距離が縮まった。相手は立ち止まる。応答は無し。刹那。視界がクリアになる。


「!?」


濔音は相手の風貌が目に映る。

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