雪降る収穫祭ー中編



今だから告白します。
私がどうして大切なアッシュ様を誘拐してジャシュ様に身代金を要求したのかを。その前に、私の生い立ちを知ってもらっても構いませんか?時間を頂きますが宜しくお願いします。

私の出身地は北大陸と当時敵対してた南大陸の東の端、チャイナタウンで生まれました。丁度位置で言えばジパンナの近くですね。チャイナタウンからここ北大陸に来た理由は二つありました。
一つは、父が北大陸人だったから。父は、この武装大陸もとい軍人国家を、こよなく愛していました。父は、北大陸の少佐で手柄をそこそことっていました。自分は強い。昇格するのも時間の問題だ。父は、自負の念にかられ毎日戦の日々でした。そんな、北大陸の季節の変わり目の時、ある資産家に出会いました。そう、丁度今年みたいな雪の降る収穫祭の時期に。
彼女は父に尋ねました。
『どうしてあんたは、祭りの日にそんな目をしている?そんなに祭りが気に入らないのか?』
父は応えました。
ーいえ違います。私は戦に飢えています。だから、祭りには楽しめません。
彼女は不適に笑って父にいい放ちました。
『面白くない男だね。戦争以外に楽しめる自分の誇りはないのか?』
ー自分の誇りとは?戦争以外に特にはー
『少しは頭を使え。私は資産家であり革命家だ。お前は、この国がおかしいとは思っていないのか?王族なんてものはただのお飾りで、軍人どもが好き放題している。一般市民のことなど考えてはいない。だから、戦争以外で自分の誇りを自分が生きているという証をこの収穫祭で形にしているのさ。ーまあ、形にしているのは、お前たちだがな』
彼女は、気品には溢れながら子どもを優しく抱き締めて、父に言ったそうです。父は、その言葉が気になっていました。気になりながら、ルドルフル島の戦争で父は爆撃により島から追い出されました。意識不明の中、奇跡的に流れついたのは島国であるジパンナ。ジパンナで私の母に出会いました。母は、隣りの国チャイナタウンでラーメン屋を営んでいました。父は、母のラーメンを食べて感動して泣いたそうです。北大陸にはない芳ばしい味。身も心もあたたまる美味しい味に。父は、軍位を捨て国籍を捨てチャイナタウンで、母とラーメン屋を営むことになりました。私が生まれた時には、チャイナタウン一のラーメン屋として名を馳せていました。
そろそろ私が、北大陸に来た二つ目の理由もなんとなくは想像ついた方もいらっしゃるでしょう。蛙の子は蛙。環境が環境。私がラーメンを作るのは必然であって、進むべき道でした。
二つ目の理由。父の祖国でラーメンを普及することでした。しかし、一人では、父のように偉大なラーメン屋を営むことが出来ませんでした。途方にくれた収穫祭の時期。ここでラーメンの屋台をやれば、ラーメンを普及出来るのではないか。とフィリファル家に直接に頼みに行きました。初めて見た時は本当にドキドキしました。嫌味の無い豪邸と思えたのは溢れんばかりの子供の笑い声が隣りの施設で聞こえてきたからです。北大陸は、父から聞いていた通り、凄く発展された都会で電気で走る乗り物や物を簡単に収集出来るツメコミリングというものがありました。なんでも、豪雪をいかして電気を蓄えている装置があるみたいです。南大陸には無い知恵と発想が北大陸にはありました。しかし、どこか人間味はなく、すれ違う人たちは心と身体が冷かったんです。だから、私はラーメンで身も心も豊かになって欲しいと感じフィリファル家に頭を下げに行ったのです。
フィリファル家は、他の北大陸の貴族と違っていました。家は豪邸でしたが侍女が一人もございませんでした。そこにいたのは、美しい金の髪の少年だけでした。碧眼で優しく笑う少年にしばらく惚けていました。
ー見かけない服装だな。あんた、何処から来たんだ?ー
天使のような声に、驚いたのを今でも覚えています。美しい少年でした。本当に綺麗な顔立ちで、優しい笑顔で人間とは思えないほどに。造形物のように。人形のように。綺麗でした。しかし、服は一般市民が着てるような服で言葉使いも悪くなんだか親しみやすい雰囲気も醸し出していました。
しかし、残念ながら当主である、シャシャ・フィリファル様はご在宅ではなかったので帰ろうとした時、その少年は電話をかけて下さいました。
シャシャ様は、簡単に収穫祭でラーメンの屋台を出すことを許可してくださいました。しかし、条件付きで。
『あのさー。電話で申し訳ないけど。そこに私の息子いるだろ?私中々面倒見れなくて、侍女も施設が忙しくてさ。その子のために、御世話してやってくれないか?ジャシュっていう生意気な、くそガキかてきょーもいるけどさ。息子、7歳だから心配なんだ。私も本当は家に帰って凄くかまってやりたいけど!!私の息子すげー可愛いけど!!可愛いくない?なっなっ?すげー可愛いだろー?世話したいだろ?お願いします』
強引なお願いで戸惑いました。最初はこんな豪邸の御子息の世話なんて無理だ不可能だと思いました。しかも会ったことのない人間に簡単に受け入れるなんて信じられないです。そうやって、シャシャ様に申し出たら、
『んあっ?私の直感。旦那が海賊なんだけど、直感は信じるもんだってボヤいてたから私も直感信じるわ。んじゃ任せた。アッシュには私から言っとく。あー。ちゃんと挨拶した方がいいよな。やっぱ、そっち行くわ。ちょっと待ってな』
と言ったラーメンが出来る時間。3分でこの豪邸に帰ってきました。シャシャ様は、北大陸に似合わないシャツ一枚できました。少年も驚いていましたが、私より反応が早く近くにあったパーカーをかけて言いました。
ーかあさん、風邪引くよー
『サンキュー。動いてたらすげー暑くてさー。ああ、アッシュ。紹介するわ。こちら、あんたの世和してくれるネイネイさん。今決まったー』
まだ、するもしないも言っていないのにかなりのゴーイングマイウエイで進めていき正直戸惑いました。渋々引き受けるしかありませんでした。少年も私なんかでいいのかと不安になりました。しかし彼は…アッシュ様は、

ーありがとう。あんたに出会えて嬉しいよ。これから、御世和になるけど宜しくな。ー

7歳と思えないほど、柔らかく笑って受け入れてくださいました。でも、アッシュ様は、7歳でした。中で、遊んで遊んでとせがまれあまり外には出してもらえまんでした。しかし、それがアッシュ様の策略だったということと、シャシャ様が私を保護して下さっていたとは当時の私には気づきませんでした。
北大陸人は他の大陸人には異常に冷たいところがございました。アッシュ様に無断で買い物に行った時、その時に気づきました。
ー南大陸人に売る物なんてないよ。さっさとお帰りー
ー南大陸人は、ゴミでも食ってろー
なんて、物を投げつけらたことがありました。でも、怪我をしたのは私ではなく、かばって下さったのは、アッシュ様でした。アッシュ様は、民衆に言い放ちました。

ーあんた達には、北大陸人としての誇りはないのか?あんたらの誇りが他の大陸人を馬鹿にするような程度のものなら、あんた達が支持しているシャシャ・フィリファルの顔に泥を塗っていることと同じことだ。それが分からないのか?ー。と。

凛とした声で、言い放ちました。フィリファル家は、貴族からも王族からも一目置かれていましたが、一般市民から圧倒的な支持がありました。なので、フィリファル家の名を穢したと分かり、しかも、7歳の少年に言われて押し黙りました。それだけ人気の高い貴族でした。それは、この収穫祭援助資金の他にも市民のために資金を援助している貴族だからです。王族よりも国政をしていたのが、フィリファル家だったのかもしれません。王族は、戦うことしか考えてなかったのですから。
この一件により、私はフィリファル家に守られている。保護されていることが分かりました。
そして、フィリファル家に侍女があまりいない理由がわかったのもこの時でした。
アッシュ様は、勉強面ではジャシュ様がございましたので分かりませんが、生活面は自分一人でなんでも出来る御方でした。料理、裁縫、掃除、作法。私がやりますと言っても、言うことは聞かずに必ず手伝ってくださいました。正直言って掃除の時は、とても助かります。豪邸を一人で片付けるのは大変だから。アッシュ様になんどもーご寛ぎ下さいーと申しましたが、
ー一人より、二人の方が楽しいじゃないかーとおっしゃって下さいました。
侍女失格だと思います。しかし、アッシュ様の優しさに甘えていたのも事実です。しかし、彼にも知らないことがありました。ラーメンの作り方です。彼は凄くラーメンを気に入って下さいました。毎日食べたいと言ってくださいました。ー収穫祭の時ラーメン出ないかなーアッシュ様の呟きに絶対出ると応えました。当初の目的は、ラーメンを屋台に出すことですので。しかし、同時に、アッシュ様の内面も時が経つにつれ分かってきました。
私がフィリファル家に来て丁度3年。収穫祭の前夜。アッシュ様が窓を開けてぼーとしていました。

ーどうされました?
ーかあさんも父さんと同じで帰らなくなったな。
ー…。収穫祭でお忙しいのでしょうか。
ーそんなことないよ。収穫祭のせいじゃない。今日で丸三年だ。…かあさんが帰って来ないのは、もしかして俺のこと嫌いになったかなー

初めてでした。アッシュ様が泣きそうな顔で微笑んだのは。そして、子どもらしくむすっとして、

ーあーあ。本当は、俺、あんまり祭り好きじゃないんだなー。一人で行っても全然楽しくない。友達を誘っても、どーせ親いるし。家族の邪魔したくないし。10歳なんだから親同伴じゃなくても行けるだろ。小さい時から一人で行ってた俺ってなんなんだよ。ー

アッシュ様は、聞こえてくる楽しい民衆のお祭り準備をどのように思われていたのでしょうか。一人でも祭りに行かれるのは、フィリファル家の子息だから。収穫祭の感想をシャシャ様に伝えなければならないとアッシュ様は考えられていました。収穫祭を子どもの目線から見ることで、来年も収穫祭を発展させる。少なくともアッシュ様はそのような考えをされていました。

ーアッシュ様…ー
ー俺は一体何者なんだろーな。ネイネイー

ぼそっと呟かれたのを今でも覚えています。アッシュ様は、収穫祭が嫌いとか好きではなくて、両親に会えない辛さを叫びたかったのだと思います。その次の年、私からアッシュ様に収穫祭を誘いました。ラーメン屋の屋台は、収穫祭の時だけ父に引き継いでもらうことにしました。
初めてでした。収穫祭を楽しむ立場になったのは。アッシュ様は、本当に良かったのかと何度も聞いてくださいた。私は、父がラーメン屋の屋台を引き継いでくれたの告げず知り合いに頼んだと言って誤魔化しました。
沢山、色々な屋台を見て、空に描く花火を見てー。
アッシュ様との収穫祭は本当に楽しかったです。

アッシュ様は徐々に変わられていきました。親友が出来てジャシュ様とももっと仲良しになれたそうです。ー良かった。

そして、今年。収穫祭二ヶ月前。チャイナタウンで運営していた父のラーメン屋が倒産しました。母の死が原因により、父はやる気を失っていました。父は莫大な借金を残したまま北大陸に逃亡しました。今私が、カメオに入れた家族写真をソファに座って眺めているこの家が父の逃亡した場所です。私は、フィリファル家に御世話になったのに給料は良く、私のお金で借金は返済しました。もう、お金がそこをつきました。父は、北大陸の国籍を捨てた身なので収穫祭が終わると帰らなければなりません。しかし、お金がない今誰かに借りなければなりません。シャシャ様に仰ったらなんとかしてくださると思いますがこれ以上御世話になることなど出来ませんでした。
アッシュ様が収穫祭に行かれた後手当たりしだい探しましたが、お金を貸して頂けるところはありませんでした。
気が付くと、家の路地裏に来ていました。空からは、雪が舞い散っていました。その時、アッシュ様を見かけました。声をかけようとしましたが、声が出ませんでした。私の人間の欲がどっと波のように押し寄せてきたのです。まるで、夜の波が私の善良な心を覆い隠すように。

ーアッシュ様を誘拐して身代金を要求したら必ずお金を用意するー

気が付いたら、アッシュ様をハンカチで口に押しあてていました。アッシュ様は私の手元で気を失いました。私は、怖くなってアッシュ様を置いて逃げようとしました。しかし、雪がアッシュ様を容赦なく打ち付ける。アッシュ様を凍死させるには行かない。私は、アッシュ様を自分の服の中に入れ走って父の家まできて暖炉に火をつけました。時間が経ちました。こんな時1分が長く感じます。家まで走ってきたので胸焼けがしました。心臓が痛い。息を荒くしながら私は、アッシュ様を服を何枚も着せました。
ー危ない目に遭うなと言っておきながら自分が大切な方にー
私の心は、悔悟しかありませんでした。アッシュ様は目が醒めると私を信用しずっと側にいるでしょう。貴方を危ない目にあわせた誘拐犯なのに。きっと、貴方は誘拐犯と言っても笑って流すでしょう?その前に、私が誘拐犯だってことを打ち明けられない。自分が可愛いくて仕方がないから。アッシュ様の優しさに甘えて嘘をつき続けてしまうでしょう。私は、嘘をつきたくありませんでした。なら、誘拐犯でいきましょう。
唾を飲み込んでシャシャ様に電話をいれようとしましたが、出来ませんでした。その時アッシュ様を見て軽く両手両足を結びました。
結んだら最後。もう後へは引き返せません。私は誘拐犯。その勢いで、ジャシュ様にアッシュ様の携帯から電話をかけましたが、ジャシュ様によく知られている声なので、携帯サイトから声が変わる変声ボイスをダウンロードし、番号をかけました。結局騙していることと同じ。私は、心が弱いから。そう開き直ると簡単でした。

ー噴水公園に58万ギルを持ってこい。そしたら、子どもを開放してやるー

58万ギルー。いつのまにか欲しい金額を要求していました。100万ギルや1000万ギルより58万の方が、私にとって価値のあるお金でした。ジャシュ様の問いかけが怖くて要件だけ言って慌てて切りました。声が震えていました。きっと変な誘拐犯だと思われたでしょうね。私の上擦る声に気が付かれ、アッシュ様は目を醒しました。ーお気付きになられたようで。ご機嫌いかがですか?ー先程とは違い、アッシュ様に投げた声は冷静で研ぎ澄ました声になりました。高鳴る心臓。震える足。主君を見下ろす最悪な棒の足。アッシュ様は、辺りを見渡し状況確認してから冷静に私の問いに応えていきました。…取り乱すかと思っていました。5年間。アッシュ様や私にとって5年間というのは麺のように長くスープのように濃いものだと自負しています。ですが、アッシュ様は戸惑うこともせず、狼狽えることもせず、疑うこともせず、怯えることもせず、悲しい目もせず、ただ私を見ていらしゃいました。アッシュ様の目から何も感情が見えてきませんでした。だから、私は冷静さと落ち着きを取り戻すことが出来たのかもしれません。どうして冷静でいられるのかと問いました。すると、アッシュ様は、見たことのない大人びた顔でー苦笑しました。

ー当たり前だ。あんたが俺に言ったんだ。知らない男には着いて行くなと。知らない男ならともかく、よく知っている人物に取り乱すことなんてしないよ。どうして、58万ギルが必要なんだ?ー

御尤もなご意見で、御尤もなご質問でした。でも、貴方が知る必要なんてございません。貴方に知って欲しいのは私がお金に困って貴方を誘拐したことだけです。動機なんて知らない方がいいんです。ですから、決してフィリファル家が憎くてアッシュ様を誘拐したわけではございません。
全ては私の人間の弱さと狡さです。 

暫くそこで寝ていて下さい。一時間なんてすぐですから。
私は、カメオを握りしめて時計を見ました。いつの間にか半刻の時が流れていました。アッシュ様の様子を見ようと戸を開けようとしました。
隣の部屋から煙臭い悪臭が漂っていました。私は、はっとしてすぐにドアを開けました。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -