ーまさか、死神の時の名前を北大陸の大佐から呼ばれるとは思わなかった。

死神だった頃の記憶は曖昧で、彼が何を考えて何を思っていたのかまでは分からない。僕がシャドーだった頃の記憶は、映画のようなもので。シャドーが住んでいた神界の景色や理、言葉、社会の秩序、シャドーの生きてきた奇蹟しか記憶にない。

記憶にあるシャドーは、影を使って人形を動かし戦闘をしていた。シャドーは、風のように雲のように空のように掴めない男でいつも巫山戯たような奴だった。けど頭の回転は早かった。いつも一足先のことを考え行動をし、死神達を動かしていた。

動かす?否、彼等は自分に正直な奴らで好き勝手に動いていたね。
シャドーは、死神の纏め役。腐り切った死神の世界を面白可笑しくしたのが彼の使命だったのかもしれない。

輪廻は生前深く関わった人ほど、転生した時近くに転生する。紫木月の家族のほとんどの子が、死神の生まれ変わりだ。死んでからも集うなんて神界の死神の子達らしい。彼らにはもちろん死神だった記憶はない。だけど、僕はもう一度会えて嬉しかった。

僕は、そんな彼らを守りたくて、シャドーのように巫山戯た様(よう)にはなりたくなかったけど、シャドーのように強くなりたかった。

だけど、なんだい?今の様(ざま)は。
大佐からもらったぶかぶかの軍服を着て上半身を覆い隠しているだけだ。中は、何も着てない。下駄もしんどくて脱いだ。足が痛い。
全身が震えて、また足がすくんで、壁によりかかっている状態だ。歩いては、止まり。歩いては止まっている。酷すぎる様だ。怖いという感情が波のようにどっと押し寄せている。

だけど、こんな姿を誰にも見られたくなくて。
彼等の気配から避けている。
彼等に見つからないように、ルートを変えては頼りない足どりで歩く。

でも、僕は家族よりこの状況を一番見られたくない人物がいる。



黒白黒斗。



彼は、僕の盲点、弱点をついてくる。彼が僕を捜してくれる時、彼の気配は何故だか分からなくて。いつも彼に見つけられ、心を平気でかき乱す言葉を囁く。その言葉で僕は取り乱す。
僕の心の中を平気で読み、僕を安心をさせるような行動をするから。いつも僕を困らせる。だから、僕は彼から抗うように歩いている。

だけど。

僕は足を止め、空を見上げる。
空に描いていた花火がいつの間にか終わっていた。

濔音「いま、ーすごく君に会いたい」


本当はそう思っている自分もいて。
彼に甘えたいと思う自分もいる。
そう思うことは罪かな?
そう思考するのは罪なのかな?
なぜだか分らないけど、彼に物凄く会いたい。

?「私よりも?」

僕は、はっとして後ろを振り向いた。


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