03







頭がぐらぐらする。

実体がないから出来ないだろうけど、吐き気がする。

私は一体どうなってるの?

体は?

魂だけ?

ホウオウが言ってる事が何一つ解らない。



『すまぬ…混乱させてしまったか』

「う…あ……っ」


ホウオウが言ってる事は本当は嘘かもしれないと思ってても、どこかでこれが現実なのかもしれないと思い始める自分もいた。



『あぁ…しまった、少し此処にい過ぎたようだな』



ホウオウがそう困ったように言った瞬間、ばたばたと言う足音がこちらに向かっているのが聞こえてきた。

しかもそれはかなりの人数だと思われる音だ。



『我はそう長い間此処にはおれぬ。お主にはすまないが…』

「い、行っちゃう……の?」



掠れた声に思わず自分で泣きそうになってしまったが、それどころではない。

私には頼れるのがホウオウしかいないのかもしれない。

今目の前にいるホウオウがいなくなったら誰に助けを求めれば良いのか私には全く思いつかなかった。



そうでなくても私は幽霊なのだ。

さっきはお坊さんに体に戻して貰おうと思ったが、ここが私の世界ではないのならば、ポケモンの世界であるのならば私の体があるとは考えられない。



「ど、し…っ」

『お主の事は我も少し調べてみよう』

「…っ」

『泣くでない。暫く辛いかも知れぬが我はまた此処に戻ってくる』

「っは、い……」




別に泣いてる訳ではない。

私は泣けないのだ。

だけどホウオウは心で泣いている私を見抜いたのだ。




『さて、もう行かねば』




足音が近づく。

もうすぐそこまで誰かがホウホウを捕獲しようと来ているのだろう。





「また、会えます…か?」

『あぁ、お主が望むのであれば』

「私、アオイって言うんです。お主じゃ、ない、です」

『そうか。すまぬ、アオイ』




ピカチュウみたいに表情の変化が簡単には分からなかったけど、心なしかホウオウは優しく笑ってくれたように感じた。






「マツバはん、こっちどす!」

「ホウオウ…っ!!」

『では…またな、アオイ』


誰かがホウオウの名前を呼んだ瞬間、バサリと鮮やかな羽を広げてから、私に優しい音色で名を呼び空に溶けていった。



何人もの舞妓さんやお坊さんが私をすり抜けてホウオウの飛び立った空を仰ぐ。

その表情は寂しそうでもあり、嬉しそうでもあった。



私は彼女達が体をすり抜けていった瞬間、みえない人なんだと分かり、自分はやはり魂だけのものなんだと改めて思い知らされた。

ぎゅうっと心臓を潰された気分だ。







「ねぇ…君は、ホウホウの何なんだい」

「…え?」




私のすぐ後ろから男性の殺気だった声がした。

ホウオウが最初に会った時に出していた殺気なんて目じゃないくらいの殺気だ。

でもそれには殺気だけではなく、嫉妬も篭ったような声色だった。






「もう一度聞くよ?君はホウオウの何なんだい」






振り向けば紫色のマフラーがふわりと揺れるのが見えた。

傍にはニタリと笑うゲンガーがいて、私を睨む。



あまりの恐怖に私の体は震えるようにふわりふわりと宙を泳いだ。




目の前の彼、ゲームの画面で何度も見たマツバさんは私から目を離さない。


あぁ…そうか、彼は私が視えるんだ。







紫が私の魂を縛る



2011.10.8


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