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目が覚めたらそこは真っ白な知らない天井…なんてことはなくって、すぐに仮眠室のベッドなんだと気付いた。 そんなに仮眠室のベッドにお世話になったわけじゃないけれど、自分の家のベッド以外で寝たことがあるのがココだけだったからすぐに気付けたのだ。 まだ活動しない重い脳で何時眠りに付いたのか考えてみたけれど、全く思い出せない。 でも意識がぷつりとなくなる前のハーブティーの温かさだけは覚えてる。 (なんだか酷く、泣きそうになったんだよなぁ…) とりあえず今何時なのかも分からない状態ではどうしようもない。 出来れば仕事の時間の前に起きたと願いたい。 ぴったりと閉められた仕切りのカーテンを引けば、壁にかけられた時計が目に入る。 まだ4時を指している短針を見てほっとした。 どうやら仕事には十分間に合いそうである。 一応仮眠室に自分の私物が何かないか確認し、一度シャワーを浴びてから仕事に向かえば丁度良い時間だろうと逆算しながらドアを開けた。 「あ、ハヤマさんおはようございます!」 「体調は良くなったかー?」 「……え?」 まだ誰もいない筈の時間なのに、そこには既に私以外の職員が仕事をしていた。 「え、あの、皆さんまだ、4時じゃ…」 「?そうですね?」 「あの、え…」 「折角の休みだったのにもう夕方ですもん、吃驚もしますよね」 「それだけハヤマは疲れてたってことやろ」 待ってくれ、状況が追いつかないぞと脳がフリーズしている間にも情報は強制的に送られてくる。 「わ、私、今日休みのはずでは…」 「クダリさんがノボリさんに休みの手配をしていましたから大丈夫ですよ」 「最近休みロクに取らないで頑張ってばっかりだったし、丁度良いじゃないか」 (あぁ、なんだ) (私はクダリさんにとても迷惑をかけてしまったと言うことはよく分かったぞ) まずはクダリさんに謝りに行かないといけないなぁ…なんて考えながら、久しぶりにゆっくり寝れたせいなのか妙に頭がすっきりしていた。 そのせいか悩んでいたノボリさんのことも少しは軽くなった気がした。 「私、ちょっとクダリさんにお礼、言ってきます」 「お、じゃあそのまんま今日は帰りなー」 「もう終わっちゃうけど残りの時間もゆっくり休んで下さいね」 「ありがとうございます!」 「また明日からよろしゅう頼むな」 「はい!」 急に休んだのにも関わらず、一つも嫌な顔をしないで優しくしてくれるなんて本当に良い人だらけだ。 ちょっと泣きそうになったけれど良い大人が泣いたら恥ずかしいからぐっと我慢した。 お先に失礼します、っと先輩方に声を掛けてダブルトレインのホームに急ぐ。 今の時間帯ならまだいるはずだ。 早足で廊下を過ぎ、各トレインへの連絡口への階段に差し掛かった時ばったりとノボリさんと出会った。 「あ…ボ、ス…」 どうせいつも通りまた目も合わずに通り過ぎてしまうんだろう、ちょっとだけ浮いていた心も一気に沈むのが分かる。 無意識にぎゅっと握った掌が汗で気持ち悪いが、握ってないと涙腺が崩壊してしまいそうで緩められない。 「お疲れ様、です」 「……ハヤマ様」 「っ」 久しぶりに自分の名前を呼ばれ、全身が湧いた。 ドクドクと心臓が忙しなく動き始めたのが分かる。 「なんでしょうか…」 「お体は、大事にして下さいまし」 「…っ、はい」 じわりと目の前が歪む。 (あぁ、私は今、好きな人と会話をしている) 可笑しな話だと笑うかもしれないが、嬉しさで涙腺は崩壊。 良い大人が嬉し泣きだなんて、とかもう何でも好きなように言ってくれ。 久しぶりに聞いたボスの声はやっぱり優しくて、私は彼が好きなんだと思い知るばかりである。 「それでは、また明日」 「ありがとう、ございます!」 最後までボスの顔を見ることは出来なかったけれど、今の泣き顔を見せて更にボスを困らせたくはない。 (きっとボスは私が泣いてることには気付いているんだろうけど) (でも気付かない振りしてくれる) (あぁ…やっぱり私は、ボスが大好きだ) カツカツと側を離れていく足音を聞き、完璧に人の気配がなくなった廊下でボロボロと本格的に泣きしてしまったのはしょうがないと思って頂きたい。 そう、たったそれだけで 何よりの薬となるのです 目が少し腫れたままクダリさんにお礼を言いに行けば、全て分かったと言わんばかりに笑うから本当嘘も付けやしない。 2012.9.4 |