4.泣き喚きながら喜んでくれると思ったのに







結局あの後すぐにノボリさんが帰ってきて、クダリさんに放り出されるように返された。

意味がわからない。


今日は昨日の怒りを発散させるためにショッピングに出掛けてみた。

正直ポケモンバトルでも良かったが、バトルサブウェイに行ってまた昨日のような展開になるのは嫌だったから止めた。



ライモンシティから出る一般のトレインでヒウンシティに行き、まずはヒウンアイスを買う。

早い時間に来たためか、ヒウンアイスは完売する前に容易に購入することが出来た。

すっかり春の気候になり、ぽかぽかする中人の波に気を付けながらヒウンアイスに口を付けつつストリートを抜けて、海を見ながら残りのアイスを食べる。

久しぶりに見たヒウンシティからの海は穏やかで綺麗であった。


特に急ぎでもなかったので、ベンチで少し休んでからメインだったショッピングを始め、洋服やら鞄にポケモンのアイテムをじっくりと見ていたら夕方になってしまった。



思っていた以上に時間が過ぎてしまったことに驚きながらも、行きと同じように帰りもトレインを利用して帰る。

一般のトレインはどれも必ずメインのライモンシティに行く。

つまりは必ずバトルサブウェイのホームを通る必要があるのだ。

出来ればサブウェイマスターの二人には会いたくないと考えながら、地上への階段に足を進めればダブルトレインから出てくるクダリさんと出会ってしまった。


「あ、アオイ!昨日ぶりだね!」

「そ、うです、ね…こんばんは…」


会ってしまったのならしょうがない。

当たり障りのない挨拶をしてさっさとこの場を去るのが得策であろう。

挨拶を済ませたし、さっさと退散すべきだと思い家への第一歩を踏み出した瞬間、クダリさんにがっしりと腕を掴まれたのだ。

掴んだところはまた一寸の狂いもなく以前怪我をした肘であり、若干歪んだ表情になればクダリさんはとても嬉しそうな、楽しそうな表情になった。


「ね、今日一緒にご飯食べようよ」


歪んだ表情のまま掴まれた手を見ていれば、急に言い出したクダリさんの一言に一瞬脳内が真っ白になった。

無言を肯定と取ったのかわからないが、クダリさんはそのまま掴んだ腕をズリズリと引きずり、また執務室へと連れられた。


(なんだこのデジャウ)


ノボリさんは挑戦者と対戦しているのだろうか、執務室にはいない。

私を執務室に放り投げたクダリさんはサブウェイマスターのコートから、私服になるために更衣室へと姿を消した。

先日見た状態となんら変わらないデスクの上を見ていれば、ラフな格好になったクダリさんが更衣室から戻り、また傷の癒えていない肘を掴み外に出た。




正直有名でもあるサブウェイマスターの片割れとご飯なんて恐れ多いものである。

更には先ほどからビシビシと感じる女性からの視線は恐怖だった。


そんなことを知ってて、多分ドSなクダリさんは私をご飯に誘ったんじゃないかと思ってしょうがない。


(どう考えてもクダリさんは私の反応を楽しんでる…)


ビクビクしながらお店に行き、店員に通されたのは他人の目が付かないビップルームであった。


正直周りの視線は怖かったし、他の人から見れない状態の部屋はありがたかった。



でもクダリさんは私が安堵した表情になったことで、機嫌を損ねむぅっとした表情をした。

そこからはまた大変で、不機嫌なクダリさんと無言の食事である。


不機嫌な相手との食事は胃をキリキリさせられた。

普段の私ならば「何故不機嫌な相手と食事なんかしなければならないのだ!」っと怒ってその場を立ち去るだろうが、相手がクダリさんではその後どうなるのか考えたくもない。

彼からの仕打ちも十分怖いが、その他の人間からの仕打ちも恐ろしいものだろう。


(特に女性からとか女性からとかノボリさんとか)


普段食べないような高級な食事に味なんてするわけもなく、胃が満たされることもなかった。

恐怖からくる嫌な汗を手やら背中にかいたまま、出された紅茶を飲んでいればクダリさんは店員にカードを渡したのが見えた。一瞬なんのカードを渡したのだろうかと思ったが、すぐに会計のためクレジットカードを渡したのだと気付いたが遅かった。

それからクダリさんはカードを財布に仕舞ったかと思えば、スルリと外に出た。


正直自分で払えるような額であるのか不安ではあるが、奢られるままなのは嫌であったので話せば「別にいいよー」っと不機嫌なまま言う。


更に不機嫌になるのは承知で「でも…」っと言えば、何か思い付いたのだろう。


ニタリ笑ったかと思えば、クダリさんはそのまま怪我をしている肘を引き、まだ人通り多い街中でキスをしてきやがったのである。



こんな場所で、有名でもあるクダリさんに奪われたことにもう発狂ものであるが、驚きで声も出やしない、真っ白に燃え尽きた状態である。


そんな私にクダリさんは「泣き喚きながら喜んでくれると思ったのに」っとまた唇を尖らせて、いまだ反応の出来ない私の頬を抓るのであった。





泣き喚きながら喜んでくれると思ったのに




唇に触れた柔らかさは、頬を抓る痛みですぐ忘れた。







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