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※マツバ視点 早いものでアオイちゃんと一緒に住むようになってから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。 最初こそ一線を越えないようにアオイちゃんは僕との距離を取っていたけれど、それはただの強がりだったようで何時も泣きそうに僕を見ていた。 そしてアオイちゃんは一緒に過ごしてる間に、僕が何故自分を側に置いているのかも薄々ながら気付いているようだった。 (別に隠すような事でもないし、それを知ってなおアオイちゃんは僕の側からは離れなかった) (その理由を分かっていながら優しくする僕は、さぞかし彼女にとって悪に見えるだろう) アオイちゃんとの生活はそれほど毎日違うことが起こるわけでもなく、朝起きてジムに行き、帰って寝ると言った単調な毎日を共に過ごすだけである。 そんなつまらない毎日にアオイちゃんは不満を言うわけでもなく、ただただ見るもの全てが新しいと言い、笑うのだ。 (最初は泣きそうな表情しかしなかったのに) (僕を恐れてただろうに) (彼女は笑うから……) 「マツバさん、今日はジムに行かないんですか?」 「あぁ…今日はジムはお休みなんだよ」 「ジムにもお休みがあるんですね…知りませんでした」 「だから今日は前に約束していたスズの小道に行こうか」 「…っ、はい!」 アオイちゃんは自分が誰にも気付かれない存在であることに酷く恐怖を感じているのだと思う。 何故それが分かるのかと問われれば、大きく心が揺れる時は決まって僕にもその感情が伝わるからである。 そんな時は触れられないと分かっていながらアオイちゃんの頭を撫でれば、落ち着くのを知ったのは会って間もない頃である。 (彼女は本当に孤独が怖いのだろう) (僕だけにしか頼れない、そんな可愛そうな子) (未熟な子) 「綺麗ですね」 「そうだね」 季節に関係なく、時が止まってしまったかの様に紅葉のままであるスズの小道をさくさくとアオイちゃんと歩けば隣からは感嘆の溜め息が零れるのが空気で分かる。 アオイちゃんを利用するような形になってしまった事に、今でも心が痛まないわけではない。 僕だって人の子だ。 まだあどけなさの残る女の子に何を望み、利用しようとしているのか、それはどれだけアオイちゃんを傷付ける行為であるのか分かっているつもりだ。 「ごめんね」 「…?何がですか?」 「ううん、こっちの話だよ」 ふわりと浮かんでこっちを振り返ったアオイちゃんに貼り付けた笑顔で話す僕は本当に駄目な大人だな…なんて。 僕にしか見えない可愛そうな子。 一人で生きていけないと知り、利用されてでも僕と一緒にいたいと願っている。 そして僕はアオイちゃんから流れてくる強い感情に気付きながらも知らない振りをし続けるのだ。 (僕だけを頼れば良い) (それで、全て……) そう、少なからず僕は彼女に愛しさを感じているのかもしれない。 2012.3.10 |