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先日、クダリさんと昼食を一緒にした日からボスの態度が可笑しくなった。

特別驚くようなほどの変化ではないのだが、私を避けるような、困ったような態度をしているのは明らかだった。




正直自分が好意を持っている相手にそんな態度を取っていられて辛いわけがなく、最近の私はテンションも下り坂である。


クダリさんもそんな私に気付いているのか、たまに職場に顔を出しては何かしらお菓子を渡してくるようになった。


別にクダリさんはお菓子で私が元気になると考えているわけではなく、だからと言って一緒に昼食を取った時のようにボスの真似をして慰めるようなことはなかった。



(きっとクダリさんは私がボスの真似をしたら泣いてしまうのに気付いているんだろう)










実際にボスから距離を取られていると言っても、ほとんどの人間は気付いていないだろう。


きっとこの状況に気付いているのは私以外にはクダリさんだけだと思う。


ただ業務中の会話が必要最低限になっただけだし、すれ違った時の挨拶がぎこちなく返ってくるだけだ。




(つまり、そう、会話がなくなったのだ)

(そして視線が合うこともなくなってしまったのである)













「アオイちゃん、最近ちゃんと寝てる?」

「はい」

「ウソ、目の下のクマ…ボクわかる」

「……」




クダリさんがコトリとお気に入りのマグカップを、私のデスクに置いて来たことに困惑していたらこれである。

いつもと同じような笑顔だけど、その中に少し怒っているような、悲しそうな表情が混ざりこんでいることに気付いたのは容易である。






執務を終わらせた同期や先輩はもうとっくに帰っており、今この執務室にいるのは私とクダリさんだけだろう。

少し暗い執務室は冷たさを感じ、最近寝不足気味で疲労気味の体には辛いものがあった。










何故私がこのように一人で執務室にいるのかと言えば簡単なことであった。



ボスが私を避けるようになってから、仕事をしていないとどうしても考えてしまうので結果、仕事詰めの生活にせざるを得なかったのだ。

おかげで睡眠時間を削ることにもなり、気付かない間に少しずつ体が蝕まれ悲鳴を上げていたらしい。





「ハーブティー、あったまるから飲んで」

「すみません…」

「謝るくらいならちゃんと寝ること、いいね?」

「はい……」

「今日はもうお仕事しなくていいから、飲んだら帰ってやすむこと」

「は…い…」





差し出されたマグカップを両手で受け取れば、熱がじんわりと手から体に伝導していく。

その温かさはクダリさんそのものなんだと思ったら、何だか涙腺が緩みそうでマグカップをあおった。







「美味しい、で…す」

「よかった」

「何だか今日は寝れそうです」

「ハーブティーはリラックス効果があるからね」

「なんだか、もう、眠く…」

「寝ていいよ、あとはボクがやっておくから」

「すみま……せ…ん…」





ゆっくりとブラックアウトする世界に私は身を委ね、久しぶりに何も考えずに深い眠りにつけた。



クダリさんは私が考えすぎて寝れないのを知って、ハーブティーに少しの睡眠薬を混ぜていたのを知るのはもっと先のことである。











貴方のことを考えない夜




2012.3.9


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