クダリ01







※主人公人外












人とは違うし、ポケモンでもない。

だからと言って別にロボットじゃないからご飯もちゃんと食べる。

姿形はほぼ人間だけど、一つだけ違うところを上げるとしたら時の流れ方だろう。




例えば今、赤ん坊が産まれたとしよう。

すくすくと育ち、スクールに通い、旅に出て、仕事に就き、結婚して子を授かりやがて息を引き取る。


しかし私はその時を同じ様に過ごしたとしても、どこも変わらず、なにも成長せず赤ん坊が産まれた時と同じ姿で息を引き取るのを見送るだけである。







人は私を妖と呼ぶ。

ポケモンは私を化け物と呼ぶ。




どちらにせよ、私は嫌われ者なのだ。


なのに馬鹿みたいに人間に恋をしてしまった。










「ねぇ、これきみの?」

「…あ、はい」

「はい、どうぞ」

「ありがとう…」

「きみ最近よくサブウェイにいるね」

「……」

「バトルはしないの?」

「バトルは苦手で…」

「そうなの?残念」






人が多いところはあまり好まなかったが、一目でも彼を見たくて連日サブウェイに通った。

もう何百年と生きたから、人に化けるのはお手のものである。






今日は忙しいのかなかなか見付からないため、そろそろラッシュを迎えるし退散しようと立ち上がり出口を目指した。

その時、彼が私を引き止めたのである。




一生向けられることなどない、接点などなく彼も他の人間と同じ様に私と出逢うことなく安らかに眠りに着くと思っていた。








「きみの髪の毛、めずらしい色だね」

「そう…か?」

「うん!とってもキレイ!きみに似合ってる!」

「…っ」






毛先に向けてグラデーションがかった髪の毛など嫌いだった。


理由は勿論、この髪の毛も人とは違ったものだったからである。

しかしその髪の毛を彼が褒めてくれた。

社交辞令でもなんでも良かった。





ぽっかりと今まで開いていた心に温かな何かが敷き詰められていく。

目の前で彼は未だににこにこと嬉しそうに私の髪の毛を見ては綺麗だと言ってくれる。





「ね、さわってみてもいい?」

「か、かまわない」

「ほんとう?!ありがとう!」





感謝の言葉を掛けられたのなんて初めてではないだろうか。

それこそ私が生まれて間もない頃には数回聞いたかもしれないが、何分何百年以上生きているのだ。

(疎まれ、嫌われ者の私には感謝なんてされることは…ない)





暫く切っていなかったため長くなった私の髪の毛を、彼は掬い遊ぶ。




「光にあたると、すっごいきれい…」




うっとりと、何度もなんども彼は私の髪の毛を掬っては褒めるのでなんだかこちらが恥ずかしくなってきた。



(あぁ…そうだ、人が集まってきているのも、理由の一つだ)




確実にラッシュ時を迎え始めた地下鉄は人の声が飛び交い、私の耳を侵していく。





「あの…時間は、大丈夫なの、か?」

「え?あっ!忘れてた!ぼくノボリによばれてたんだった!」




熱心に私の髪の毛で遊んでいるところに水を差すのは申し訳なかったが、人が多くなり過ぎて脂汗が滲んできたのだ。

早くここから離れないと意識を手放しかねない。





「ぼく行かなくちゃ」

「…」

「また、サブウェイにきてね」

「っ」

「まってる!」








白いコートを翻し、彼は更に地下へ続く階段に吸い込まれていった。


(あぁ、しまった)

(彼に完璧に惹かれてしまった)






地上に繋がる階段を私は人にぶつかりながらも目指し、一気に駆け上がる。

そしてそのままライモンシティを抜け出し人気も、ポケモンの気配も少ない水辺へと体をねじ込み姿を解く。彼の優しい言葉に、その時私の耳に入った妖だと言う言葉に、自分が人でもポケモンでもないのに悲しさが溢れた。






例えば人間だったら彼の彼女にでもなれるチャンスがあった。

ポケモンであれば彼の手持ちになれるチャンスがあった。

でもこんなどっちでもない存在ではどうしようもないのだ。






ポロポロと、本来は液体が零れるはずなのに私の目からは丸い玉しか零れない。

所詮私は人外。

彼とは違う生き物なのだと悲しくなる。







「私は人と結ばれないんだよ」







(あぁ…困った)

(何十年振りかに喉を震わせたからか酷く眩暈がするよ…)










無垢な瞳で私を見てきた彼を思い出しては、私はただ泣くことしか出来なかった。







真珠を零す私は人魚



2012.1.24



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