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その日は久しぶりの休日だった。 バトルサブウェイは毎日のようにお客様がバトルをしに来る。 始発から終電まで、お客様が途切れる時はない。 そんな忙しいサブウェイでも、勿論従業員に休みはある。 しかし鉄道員や清掃員も多いわけではないので、必要最低限の休日しかとれないが皆休むのも惜しいと思うくらい楽しく働いている。 (まぁ休みで嬉しいものを挙げるとしたら、執務くらいだろう) そんなわけで久しぶりに休みを貰ったは良いが、特別することもない。 自分でも悲しい人間だとは思うけど、普段仕事ばかりしているので急に休日を貰っても何をしたら良いのか分からないのだ。 「新しい服は…この間買ったし……食料でも買いに行こうかな…」 パコッと開けた冷蔵庫はほとんど空に近かった。 毎日遅くまで仕事をしてから帰ると、どうしても夕飯は抜いてしまうのだ。 朝と昼はちゃんと取っているため、ダイエットをしていると思えば良いものだが、とりあえず今日のお昼ご飯も作れないような質素な冷蔵庫を潤すために、私は外出することを決意した。 正直なところ休みなど私にはいらないものである。 何故かと言えば答えは明白だろう。 自分の好きな人と会えないからだ。 なんて不純な答えだと、皆は言うかもしれない。 だけど私はボスを想うだけしか許されないのだから、これくらいは許して欲しい。 買ったばかりでまだ履き慣れていないパンプスを選び、自分も買い物に連れて行けと言わんばかりにこちらを見るチルットをボールに戻しホルダーに付けた。 ライモンシティ郊外に住む私は、買い物をするのにまずトレインに乗り中心街に向かう必要がある。 改札に向かえば顔見知りの鉄道員に会い、軽く挨拶をする。 丁度来たトレインに乗り込み、ドア近くに立って大きく息を吐いた。 地下のため景色の変わらない窓の外を見ながら15分程揺られ、やっと目的の駅に着く。 ライモンシティの中心街になる駅は、バトルサブウェイの乗り場でもある。 大きな駅構内は入社当時何度も迷子になり、先輩達に迷惑をかけていたものだ。 (でもそれは新入社員が必ず通る道だとクラウドさんに言われた) (未だにカズマサさんは迷子になるらしいけど) 「ハヤマ様?」 「…え?」 周りの人に分からないように下を向いて小さく笑ったとき、ふいに聞き覚えのある声が私を呼んだ。 「ボ…ス」 「本日はお休みだったのですね」 「え、あ、はい!」 いつもはサブウェイマスターの証の黒いコートを着ているはずだが、今は脱がれていた。 執務をする時でもなかなか脱ぐことがないので物珍しい。 バトルを行ったときに相手の技でコートに何かあったのだろうか。 「私、今から昼食なのですが…ハヤマ様はもうお済ですか?」 「いえ、まだです…が…?」 「ではご一緒に如何でしょうか」 「えっ?!」 正直驚きの一言である。 確かに以前は何度かお昼を一緒にしたことはある。 だがそれは恋愛相談をしていたからこそ、必要な時間だったのだ。 ボスがヒナさんにこれ以上の発展を求めていないと、本人から聞いてからは一度も一緒にお昼はしたことがない。 「え、あ、ご迷惑でなければ、喜んで」 「ではご一緒に参りましょう」 「はい!」 「最近出来たと言う駅前のカフェはご存知ですか?」 「あぁ!キャメロンさんが仰っていたとろこですね」 「本日はそちらに行ってみようかと思ったのですが…」 「私も行ってみたいと思ってたので、是非」 地上への階段を上りながら話すなんて初めてのことである。 いつも食事は休憩室で取っていたのだ。 だから正直ボスでも外食をするのだと驚いたし、たまたま会った私と食事をしないかと言われたのにも驚いた。 でも今までになかったことをされた私は嬉しくてたまらなかったのだ。 ボスとの関係をこれ以上望むことはしないから、どうか今だけはこの幸せを崩さないでと私は神に祈るばかりであった。 人は欲のあるものだと、この時の私はまだ知らない。 並び歩く私達は恋人のように見えるかしら? 2011.12.17 |