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あれからボスの恋愛が発展したかと言えば、特になしと言ったところであった。 ヒナさんにお相手がいると分かってから、行動を何か起こすことはなくボスはただヒナさんを想う日々を過ごしていた。 正直ボスが積極的に行動をしてしまったら私は見ていられなかったかもしれないし、ボスはヒナさん達の仲を裂いてまで自分の幸せを願わなかったのだろう。 (私と、同じ) 「ハヤマ様、今よろしいですか?」 「はい、大丈夫です」 「こちらの資料なのですが…少々手直しをお願いしても」 そして一番驚いたことはヒナさんのお相手を知った後でも私はボスとの関係に何の変化もなかったことである。 正直私はボスの恋愛相談をしていただけなのだ。 ヒナさんを想い続けられるだけで良いとボスは口元を緩めて言った。 ボスがそれ以上を望まない以上、私との関係はそこで終わると思っていた。 しかし実際には前とそれほど変わらず、休憩時間の共有は少なくなったが仕事では色々と頼まれることが増えた。 それだけ自分はボスに信頼されるような部下になれたのだと思ったら、嬉しくて一日中顔の筋肉が緩むものだ。 「分かりました。今日中に仕上げて提出しますね」 「ありがとうございます。ハヤマ様には仕事が増え、負担をかけてしまいますが…」 「いえ、負担のことを言ったらボスの方が何十倍も…ですよ」 「私は好きなことをさせていただいております。それにハヤマ様は女性です。どうぞご無理はなさらないでくださいまし」 「…っ、ありがとうございます」 「しかしご無理はなさらないで欲しいと言いながら仕事を任せている私は可笑しいですね」 ボスはそう言うと小さく笑い、口元を手で隠した。 (ヒナさんのこと以外で笑うの、なんて、貴重だ…) 「私はボスの部下です。たくさん使ってください」 自分の口元も緩むのが容易に分かる。 ボスの小さな心遣いに私はそれまでの疲れなんて簡単に飛んでいってしまうのだ。 むしろボスから直々に受けた仕事は自分にとっては贈り物のようである。 (まぁ、それは言い過ぎかも…ね) 「あぁ…お疲れになったらどうぞこれを」 「?」 「クダリには内緒ですよ」 小さな子を相手しているかの様にボスは人差し指をそっと口にあてながら、私の掌にコロリとモーモーミルクのキャンディーを落とした。 掌の3つの甘いお菓子をじっと見ていれば、ボスは黒いコートをゆらりと揺らしインカムを片手に事務所から出て行った。 先程の比じゃないくらい緩んでしまう口元を隠すようにモモンジュースの入ったカップを唇に傾ける。 今夜は少し家に帰るのは遅くなってしまいそうだが、私の心はフワンテの様にふわふわと幸せだった。 貴方の迷惑なんて 私にとっては嬉しいもの 2011.11.30 |