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マツバさんとゲンガーの殺気に押されるが、私はそこから逃げることも出来なかった。 幽霊なのに体が竦んだように動けないのである。 (くろいまなざしってこんな感じなのか…な) そして動けない理由はもう一つあった。 実体を探してくれると言ったホウオウが再び私の前に現れるのなら、またここに来るだろう。 つまり私はこの地を離れることが許されないのだ。 マツバさんは何を考えたのか舞妓さん達を帰らせ、私と2人きりの状態にする。 (私を未だ睨むゲンガーはボールに戻された) (怖かったから、ちょっと、安堵してしまった) 「改めて、僕はエンジュシティのジムリーダーのマツバ」 「は…い」 「君の名前は?」 「アオイ、です」 「アオイちゃんね。さっきも聞いたけどアオイちゃんはホウオウの何なんだい」 「…っ」 自己紹介をするまでは穏やかな空気を漂わせたことに安心していたが、ホウオウの話になった途端にピリリと空気が張り詰める。 思わずまた恐怖で体が浮いた。 「わ…私も、わからない、です…」 「?」 「気付いたら、ここにいて…ホウオウが…」 「君の実体は…僕には視えない」 「……」 目を閉じながらマツバさんはそう、申し訳なさそうに言う。 (そんなこと、知ってる、よ) やはり自分には実体がここにはなく、魂だけの存在なのだと思い知らされ叫びそうになった。 「私の体、ここにないんです…それで、ホウオウが…」 「うん」 「私を、探して、くれるって…」 「……君は、ホウオウと話せるのかい?」 「え…あ…多分、そうなの、か…な?」 マツバさんは腕を組み考える素振りを見せ、私は何か変なことを言ったのか不安になる。 (普通はホウオウとは話、出来ないのかな) ホウオウが伝説であること、そして自分が幽霊であることで話すことが可能なのだろうか。 マツバさんを見ればホウオウと話をした事例はないのが伺えた。 「アオイちゃんはこれからどうするんだい?」 「暫くは、ここにいさせて貰おうと………駄目、ですかね」 「いや、僕にそんな権限はないからね、良いよ」 「ありがとう、ございます!」 「でも条件を付けさせて貰うね」 マツバさんの条件の言葉で体が強張る。 一体どんな条件を出されるのか検討もつかない。 しかも先ほどまで殺気を送られた相手である。 つい身構えてしまったのは許して欲しい。 「僕の家においで」 「は…い?」 「アオイちゃん、女の子でしょ?危ないから」 「え、や、でも実体ないですし…」 「うん、でもスズの塔には野生のポケモンもいるからね。いくらアオイちゃんが幽霊でもゴーストポケモンの攻撃は受けちゃうと思うんだ」 「!?」 正直ポケモンからの攻撃を回避できるほど私は運動神経が良くない。 更に言えば夜のスズの塔はおどろおどろしいじゃないか。 (よく考えたらお寺みたいなところで夜を明かすなんて、無理に決まってる!) 自分も幽霊であるが、幽霊をを見て冷静でいられるはずがない。 怖いものはこわいのだ。 「お邪魔、しても…その、良いんですか?」 「歓迎するよ」 まだマツバさんへの恐怖が全て拭えたわけではないが、夜のスズの塔を1人でいられるほど私は強くもなかった。 「よろしくお願い、します」 「うん。よろしくね、アオイちゃん」 にっこりと最初殺気を送っていたのが嘘みたいな笑顔で言われ、思わず安心して泣きそうになった。 (やはりマツバさんは良い人なんだな) この時はまだ、何故マツバさんが私を家に置こうとしたのか検討もつかなかったのである。 笑顔の裏にはなにがある? 2011.10.21 |