05







クダリさんが言った言葉を上手く処理できない。



(今、なんて、言ったんだろう)



ボスはヒナさんのことが好き。

ヒナさんにはお付き合いしてる男性がいる。



(あぁ…これじゃボスは幸せになれない…)



一瞬、ボスが振られたところを漬け込もうかと思ったが、そんな度胸などない。

なにより好きな人に想い人がいる辛さは誰よりも自分が知っているのだ。

そんな卑怯な真似が出来るはずがなかった。




「アオイちゃん、だいじょうぶ?顔、真っ青」

「だい…じょうぶ、です」

「ごめんね、急に…。でも、知っておいたほうが良いと思ったんだ。アオイちゃんには」

「はい……」



クダリさんの表情は何時もの笑顔なのに、何処か辛そうに、泣きそうそう言った。

私の頭を撫でる手は、あやすように優しい。



(クダリさんも、優しい人だ…)




「……そう言えば…クダリさん、なんでヒナさんがお付き合いしてるの知ってるんですか?」

「ボク、人の感情に敏感。ちょっと観察してたらわかっちゃった」




へにゃりとクダリさんは笑う。

きっとクダリさんはボスの想い人がヒナさんだと気付いているのだろう。

(そして、私がボスを想っているのも知っているんだろう、な)




さて、問題はここからである。

ヒナさんにお付き合いしている人がいるというのだ。

では片思いであるボスはこれからどうするのかである。



(私、このことちゃんとボスに伝えられるのかなぁ…)

(でも、ちゃんと伝えないと…だよ、ね)












「クダリさん情報ありがとうございますね」

「ううん、どういたしまして」




クダリさんにまた頭を撫でられながら、ヒナさんのことをどうボスに伝えようか考える。

でも結局良い案は思いつかず、とりあえず自分の持ち場に戻ろうとクダリさんに別れを告げ後ろを向いた。












振り向けば目の前には私達をぼんやりと見つめる黒のコート。




後ろからクダリさんが小さく声を漏らした。

















(あぁ、もしや、今の話を…ボスは…)













「ヒナ様には、お相手がいらっしゃったのですね…」

「ボ…ス……」










力なく笑ったボスはそのまま私達の制止も聞かず、シングルトレインへと乗車してしまった。










貴方を追う為の足が
上手く動かない





2011.10.16


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