キスをして、噛み付いて





静雄はまっ白なキャンパスに鉛筆で線を書き足していく。部屋には呼吸音と時計が時を刻む音だけ。



「ねえ、まだ?」

「……」

「シズちゃん。俺、飽きちゃった」

「…お前が言い出したんだろ。モデルやるって」



静雄は呆れたようにキャンバスから顔をあげ、目の前の椅子に座っている臨也に話しかける。彼らは美大生だ。静雄は絵画学科、モデルを務めている臨也は彫刻学科に通っている。

先日、いつも田舎の風景画しか描かない静雄に臨也はとある疑問を投げかけた。「そこまで絵がうまいのに何故、人物画を描かないのか」と。
基本、入学試験には自画像の課題か何かしらのデッサンの課題が出される。なので、静雄が人物画を描けないという答えはないだろう。これは臨也の純粋な質問だった。
いつも静雄に対して捻くれて物を言う臨也からは考えられなかったが、静雄は平然と「モデルがいないから」と答えた。
臨也は自分がモデルをやるから一枚、絵を描いてくれと頼んだ。静雄は初め、何を言い出すのかと目を丸めていたが、久々に人物画を描くのもいいだろうと二つ返事で了承した。そして、今に至る。



「だってさ、シズちゃんからあつーい視線を感じてたら飽きちゃうって」

「んな視線、送ってねーよ」

「シズちゃんから熱い視線を貰えるのはうれしいんだけどね?俺が我慢できない」

「意味分かんねーし。あ、動くなバカ!」



絵を描く作業に戻ろうと、鉛筆を持ち直した途端、臨也は立ち上がり窓まで歩いていく。
静雄はモデルをやるといった奴がそんな態度でいいのかと、思い名がら腕時計に目をやる。絵を描き始めてから数時間。こんなに時間が経っていたとは思ってもみなかった。臨也がいる窓へと目を向ければ、真上にあった太陽が傾いて地平線に沈もうとしてるではないか。
これはさすがの臨也でも飽きるだろう。今日はここまでにしようと道具を片付け、煙草に火をつける。
ぷかぷかと煙を吹かしていれば、いつの間にか赤い瞳をギラつかせた臨也が目の前にたっている。口元は妖艶に弧をえがいていて静雄は嫌な予感しかしなかった。



「なんだよ…」

「何?煙草なんて吸って」

「…今日はもう終わりだ。もう帰っていいぞ」

「冷たいなあ。君は俺がどれだけ我慢していたか知らないの?」

「はぁ?」



臨也は静雄の煙草を取り上げ、顔を覗き込む。茶色いヘーゼルは困惑と疑問の色に染まっていたが、臨也は気にせず顔を近づける。



「おい…!」

「もう限界。あんな熱い視線を何時間も向けられて我慢なんてできるわけない」

「何わけのわかんねーことを…」

「もう、無意識って厄介だよね?」

「だから、」

「ねえ、シズちゃん。俺以外モデルにしちゃいけないからね?」



耳元で甘く囁かれ、静雄は耳まで真っ赤にする。そんな彼をみて臨也は嬉しそうに笑みを漏らし、赤く染まった耳にはキスを落とし、熟れた静雄の唇へと噛み付いた。



キスをして、噛み付いて


20110319@依夜
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