KAHB | ナノ



hb@15


目を覚ますと白い天井があった。

一瞬何故だろうと一番最新の記憶を辿る。思い出されるのは何かを伝えようとする木ノ瀬梓の唇、今思えば「あぶない」と注意勧告していた気がする。

保健室独特の硬いベッドから抜け出そうとするとカーテンから「起きた?」とあの彼が顔を覗かせた。

「き、木ノ瀬梓!」

「そうだけど、なんでフルネーム?」

同じバスケ部とはいえ、深く交流があるわけではない。特に向こうの助っ人なんて話した事もなく、ただ見ているだけだったのでなんと呼んだらいいのかがわからないのだ。

「皆と同じように呼んだらいいよ」

「じゃぁ、木ノ瀬くん」

「はい、名前さん」

「状況説明をお願いしていいですか」

「ぼうっとしていた君にボールが当たって、気絶したので運んで来ました。保険医は定時に帰ったけど、軽い脳震盪らしいので心配はいらないそうだよ。」

つまり、体育館からここまで彼に担がれてきたという事。重くはなかただろうか、いや絶対重い。恥ずかしくて目のしたまで布団で覆った。

「なんで木ノ瀬くんが」

「運ぶのに男が必要だからと頼まれたのと、あとボールを当ててしまったのは僕にも責任があるから」

完全に私の不注意によるものだ。「責任?」と聞き返すと彼は意地悪そうに笑って「たまに、僕を見てるよね」と言った。

気づかれていたのだ。1年生の夏も冬も、今年の夏も、そして今も。
動揺して思考が止まる。取り敢えず出た言葉は「ごめん」だった。

「別に謝る事じゃないと思うけど、嫌じゃないから今まで言わなかったんだし。でも、どうして?」

綺麗な指から放たれるすっとリングを通るボール。高く跳ねる足、余裕そうな表情が美しいと思ったからだ。しかしそんな事言えるわけがない。
話題をどうにか変えれないかと口を開いた。

「運動が出来るのに木ノ瀬くんは、どうして部活に入らないの?」

その質問は彼の何かに触れてしまったらしい。一瞬だけ表情が曇る。

「なにもかも、ある程度まで出来たらつまらなくなる」

椅子に置いた私のスクールバッグを掴み「もう学校が閉まるから帰った方がいいんじゃない」と差し出した。



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