01.折り鶴
折り鶴

煉獄 杏寿郎

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「桜餅を買って……!」きたぞと尻すぼみに云い掛けて、杏寿郎は土産を持った手を宙に止めたまま、丸いちゃぶ台を囲む二人の姿を捉えた。開け放たれた向かいの戸からカラスの鳴く声が聞こえてくる。

千寿郎は、真剣な面持ちでその手元を見つめていた。山吹色に染まった正方形の紙が合わさる様を、丁寧に折り畳まれていく一連の流れを見逃すまいと、己の手元と見比べながら、後を追うように手順を真似る。
一つの紙を折り上げ、仕上げに尾の部分を指で摘まむと、満足そうに鶴を立たせて目を輝かせた。

「姉上! 出来ました!」

嬉しそうに目尻を下げる千寿郎に、上手に出来ましたね、と名前が微笑む。
障子戸のそばに佇む杏寿郎に気が付いた二人が、揃ってお帰りなさいと云うのを聞きながら、彼はどさりと腰を下ろした。

「ほお、折り紙か!」

そうして己も一枚手に取り、名前の手元を見る。見よう見まねで作り始めると、次第に杏寿郎は首を傾げた。

「よもや!」

不格好ではないか!

ふふ、と笑う名前と眉を下げた千寿郎を見やり、杏寿郎は何故そんなに綺麗に折ることが出来るのかと呟いた。
「兄上、合わせ目を揃えなければなりません」と控えめに微笑んだ千寿郎に笑みを返し、再び新しい一枚を折り始める。
何やらこうして出来上がった折り鶴を近くの寺に奉納するのだという。今年の安寧を願い、近所の皆で鶴を折っているのだそうだ。

「夕餉の支度をして参ります」と二人へ微笑みかけ、名前は立ち上がり厨へと向かった。
ふとその前に洗濯物を取り込まなくては、と庭先へと出る。辺りは茜色に暮れなずみ、滲みゆく景色のうつくしさに思わず空を見上げた。穏やかな日暮れである。真っ白な布団の敷き布を一枚手に取り腕にかけ、さらにもう一枚を取ろうと背伸びし手を伸ばすと、杏寿郎が後ろから洗濯物を取り上げた。

そうして名前へと向き直り、折り鶴を一つ差し出すと「上手く出来たであろう!」といたずらに微笑んで彼女の腰を抱き寄せる。
彼女は胸の前で受け取った折り鶴を見つめ、彼の顔を優しく見上げると「まあ、上手に出来ましたね」と少し大げさに云って見せた。
二人は笑い合い、どちらからともなく口づけを交わす。
杏寿郎は名前の額に己の額をつけ、目を閉じて「夕餉の支度は後にしないか」と云った。耳もとに鼻を寄せながら首筋に口をつけると「杏寿郎さん……くすぐったいです」と名前は身を捩らせる。
彼女は先程から笑うばかりで、一向にまともに取り合ってはくれぬ、と彼は少し眉を下げた。

「姉上ー!」

ぱたぱたと駆けてくる千寿郎の声が聞こえ、名前が杏寿郎の腕のなかで振り向くと、千寿郎は「樫の木にうぐいすがとまっております」と興奮した様子で声を掛けた。わが弟には敵わぬ、と思いながら、ここのところ彼女を取り合うように互いに声を掛けている。
そんな心中を察してか彼女は思わず笑いだし、彼の腕をなだめるようにほどくと、千寿郎に向かって静かに歩き出した。


よいのだ。今宵は長い。
千寿郎も夜には寝てしまうのだから。

杏寿郎は残りの洗濯物を取り込みながら、二人の背を優しく見つめた。





画像提供:Suiren



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