※あなたと共に歩む日々の始まり


「ねぇ、ちょっと買い物付き合ってよ」
「はい?」

有無を言わさず、のんびりと朝のブレイクタイム(ハザマ曰く)をぶち壊し強引に手を取り宿を出る。
少し遅めの朝食だった為、街中の人通りも多い。人混みをかき分けながら、カルルはハザマの手を引きずんずんと進んでゆく。

「あの、ちょ、その、カルル!?」
「何?」
「急に、どうしたんですか?買い物だなんて」
「別に、何だって良いだろ」

ハザマの質問に振り向かず素っ気無い返事を返すカルル。何を考えてるのか全く分からないまま、ハザマは手を引かれ歩く。

街の見慣れた景色が流れるのをゆっくりと眺め、ふとショーウィンドウに映る姿にハザマは笑みをこぼす。懸命に手を引くカルルと、小さな歩幅にあわせ引かれる自分。なんてアンバランスな、いや不釣り合いと言っても良いくらい変わった組み合わせ。他人から見れば何故と言われるかもしれないけれど居心地が良いのだ、不思議と。

「何にやけてんの」
「いや、こういうのも良いなぁって」

笑顔で捕まれてる手をカルルの目の高さまで掲げると、今まで意識をしていなかったからなのか耳まで真っ赤にしてカルルはハザマの手を振り払う。

「え、ちょ…」
「早くついてこい、荷物持ち!」
「えぇっ、そういう役目なんですか!?」

口では不満を言いながらも笑顔でハザマは小さな背中を追う。抜いてしまわない様に、歩調はゆっくり、小さく、三歩後ろ。

薄い空色の髪から覗く桜色に染まった耳が、とても可愛らしかった。


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とある店から出てきたカルルは満面の笑みで街中を歩いてゆく。後ろから追うように歩くハザマは背を丸め身を屈め、少しでも目立たない格好になろうと必死になっていた。

「あと、あの店も入るぞー」
「…あの、カルル…?」
「なーにー?」

少し笑いを含んだ返事に嫌な予感が過るハザマ。あえて口にしないという選択肢もあったが、聞かなければ何も変化が無いのも事実だろうと思い、踏み込んでみる。

「コレ…どうにかなりません?」

ハザマが言う【コレ】とは、両腕で抱えている可愛らしい熊のぬいぐるみ。
別に買うまでは良かったのだ、買うまでは。

購入後宅配も何も言わないと思ったら「持って」の一言。(他人から見れば命令だが、ハザマ本人からすればお願い)別に持つのも良かった、店の中までは。
街に出てみると、この巨大なぬいぐるみはものすごく、目立つ。そりゃもう驚くくらいに。歩いている組み合わせが組み合わせだけに余計に悪目立ちするのだ。
しかしそんな視線なんてお構いなしにカルルは次々に店に入っては買い物を済ませてゆく。店員にぬいぐるみを抱えた姿を見られる度に、ハザマはどんどん身を縮めていった。


「ハザマ。おい、ハザマってば」
「え、あ、はいっ!?」

相当身を屈めていたのか、ハザマの眼前にカルルの顔が目一杯飛び込んでくる。

「何びびってんの?とりあえず、お疲れさま」

鼻で笑いながらも労いの言葉をかけるカルル。その言葉で買い物が終了したと悟る。いえ、と言葉を返そうとするが、そこでハザマはふと思考を止める。

「あの、カルル、つかぬ事を聞きますが」
「なに?」
「この大量の買い物は…どこに置くつもりですか?」
「お前の家」

しばしの沈黙。のち、絶叫。

「えぇぇええぇぇっいつ知ったんですか家借りたって!言ってないですよ私、言ってないですよ!!!!!」
「物件チラシ物色してて、さらにご丁寧に赤丸までつけてたらバレバレだよ!」
「うぐっ…」

自分の迂闊な行動によりサプライズも何もあったものじゃない状況に言葉が出ない。

「ハザマ、お前さ…散々僕の宿を我が物顔で利用したんだ。別に僕がお前の家を、部屋を利用したって文句は言えないだろ?」

得意気に言う言葉はもっともなのだが、ハザマにはどうも別の意味に聞こえて仕方ない。

「って事で早速泊まらせろ。あと荷物も全部置いておけ」
「これ全部ですか!?」
「勿論。何の為の買い物だと思ったんだ」

そう言われて買った物を覗き見ると、やたら食器の類のペアセットが目立つ。

「これって…」
「何?」
「いやぁ、カルルって意外と形とかから入るタイプなんだなぁって思って」
「だから何が!」
「だってコレ、同棲…」
「無期限の僕専用の宿だ!それ以上でも以下でもないっ!」

そう言い捨ててカルルは家に着くまで見向きもしなかった。

ただ繋いだ手は朝よりも強く、互いの指を絡め合った。



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終わり方不完全燃焼ェェェェ…
でも勢いで出した割には楽しく書けました

イメージはしあわせのかがみ






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