※淡く不確かなそれでいて強い感情
タン、タンと夜のカグヅチを駆けるひとつの影。
闇夜の中で一際目立つ淡い金色の髪を夜風に揺らしながら、影は走ってゆく。
チラリと時計台の針を確認すると日付が変わり0時を過ぎた頃。
「これは…マズイですねぇ…」
そう呟いた声色に焦りなど微塵も見せず、影は質素な宿屋の屋根で立ち止まる。
それを知っていたかのようにある部屋の窓が開き、そこから少年が顔を出し影に向かってぼやく。
「遅いよ、ハザマ。今日は泊まるつもりなんてなかったのに」
「いやいや、少し手間取ってしまいまして、ね」
影はそう言いスルリと窓から部屋へと入り込む。部屋の淡い明かりに照らされ、男…ハザマの姿がはっきりと映し出される。
鮮やかな黄緑色の帽子とコートを脱ぎ(趣味が悪いと言われるが自分だって同じ色の服を着ているくせに、とつくづく思う)、当たり前の様にハンガーにかけるハザマの姿を見て、少年は再びぼやく。
「ねぇ、ここの部屋は誰が借りてる?」
「カルル…貴方でしょう?」
「いつも言ってるけど…」
「あ!ハンガー、お借りしますね」
にっこりと笑ったハザマに少年…カルルはこれ以上文句を言っても無駄だと感じ口を噤んだのだった。
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「で、死神さんの情報は集まったの?」
ごろんとベッドに寝そべりくつろいだ状態でカルルは尋ねる。
「まぁまぁ…って所でしょうか。やっぱり噂程度しか無いですね」
「まぁまぁでこの時間?」
信じられないという様な口振りにハザマの眉が僅かにピクリと動く。ゆっくりとソファーから立ち上がり、カルルの背後へと移動する。
「全く、宿代だってバカにならないんだから…って離せよ」
「嫌です」
「離せって」
「これだけ駆けずり回って労いの言葉も無いだなんてあんまりですよ」
ぎゅう、と背後からカルルを抱き締め、淡い空色の髪に顔をうずめる。石鹸の香りがして、風呂上がりなんだな、と、そこでハザマの思考が停止する。
「ハザマ…」
「………はい」
「お前なぁ」
耳まで真っ赤にしながらカルルはハザマの腕の中で一際小さくなる。
「匂いだけで盛るなばか」
ハザマは謝罪の言葉の代わりに、カルルの項へ軽い口付けを落とした。
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黄緑ハザマさんはむっつりで単純。あと黄緑カルルが思ったより口悪くなっちゃった