※colors life
別に、特別視して欲しいとか
そんな風に考えた事は無かった
ただ、静かに、平穏に、3人で同じ時間・空間を共有して過ごすだけだと思っていたのに
突然現れた来訪者
そいつによって、俺の日常は掻き乱され不安定になって、あぁ不愉快だ
2人は彼の居る日常にもう慣れて溶け込んでいるが、俺の中ではずっと異物のままで、例えて言うなら歯の隙間に挟まってなかなか取れない何かの様に苛つかせる
「何をそんなに不機嫌そうな顔をしているんです?」
「全ておまえの所為だ」
八つ当たりだとは分かってる。でも止められない。
「何で、全てを奪い去っていこうとする。やっと掴んだ暖かな空間を、貴様は易々と俺の目の前でかっさらっていく」
ぐしゃり、と自分の髪を掴みかき混ぜる。苛立ちが止まらない。
「こんなにも不安で仕方が無いのに2人は気付いてくれないし、もう…嫌だ。何で俺の目の前に現れたんだ、ハザマッ!」
すこし間を置いた後、目の前に佇む彼は緩く目を伏せポツリと呟いた。
その言葉を聞いた俺は振り返り駆け出した。
『そんなに不安で仕方の無い感情を私に吐露出来るなら、彼らにもしてくれば良い。言葉にしなくては伝わらないものなんて沢山あるんですから』
そうだ。そうだった。すっかり忘れていた。
以前は何かあったらすぐに話して、笑って、怒って、また笑って…そうやっていたのに、今じゃ2人とも言葉をあまり交わさなくなった。
こんな醜い感情を抱えてるのを知られたくなくて、自分から避けていたのに。
(最悪だ…)
あんな八つ当たり。でも、そのお陰である意味気付いた事もあるから後で礼の一言くらいは言ってやろう。変な顔をされるかもしれないけど。
「ママ、ちょっと良い」
「わっ…ジン」
裁縫をしていたママは驚いて作業の手を止める。そして、針と糸をしまい、柔らかく笑いこう言ったのだ
「久しぶりだね、こうやって話すの」
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オレね、ジンに嫌われてるのかと思ったんだよ。最近目も合わせてくれないし、声も掛けてくれない。もう親離れの時期なのかなぁって柄にもなくそう思っちゃったんだ
でも違ったみたいだね、逆にオレ達がジンを不安にさせちゃったみたいだし…。カルルなら今は部屋に居ると思うよ。誤解、解いてあげて…
ママはそう言ってぎゅっと俺を抱きしめてくれた。久しぶりに触れたママの体は、少し小さく感じた。
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コンコンと控えめに部屋のドアを叩く。
…反応は無い。
もう一度、次は普段と同じ様な強さで叩く。すると、何遠慮してるの?と部屋から声が聞こえた。
どうやら俺が部屋を訪ねているのは分かっていた様だ。
「分かっていて返事をしないだなんて、意地が悪いな」
「これもまた愛情表現ですよ、ジン兄さん」
「相変わらず歪みっぱなしな奴め」
「褒め言葉として受け取っておきます」
少しの含み笑いの後、カルルは「ねぇ」と言葉を続けた。
「突然部屋に来るなんてまたどんな風の吹き回し?」
一番聞かれたくない核心をドスンと突かれた。こういう直感だけは冴えているからこそ、基本的には隠し事をしたくはなかった。
「…ジン兄さん」
はぐらかさずに、きちんと質問に答えろと言わんばかりの冷ややかな言葉が耳に突き刺さる。
「別に、深い意味なんて無いさ。ただ、お前と話して、声を聞きたかった」
それだけだ、と言えばカルルは拍子抜けした様な表情で固まっていた。
「おい、カルル?」
「なんだ、なあんだ!もー、兄さんびっくりしちゃったよ」
ぽすん、とベッドに倒れ込みケラケラと笑う弟。
何事かと思い今度はこっちが拍子抜けした様な間抜けな顔になる。
「…カルル」
「うん。ごめんね、兄さん。安心した」
何に安心したのか分からなかったけれど、今聞いても答えは返ってこない気がした。
「僕ね、変わっていく事が凄く怖かった。ママに出会って、ジン兄さんに出会って、初めて心を許せる場所を得たのに、ハザマが来て全てが変化していった」
もちろん僕も。と、カルルは最後に呟いた。
結局同じなんだ。ただそれを表に出したか、閉じこめたかの違い。
互いに同じ不安を抱え、悩んでいたのに何で気付かなかったのだろう。何で気付いてやれなかったのだろう。
俺はカルルの隣へ倒れ込み、くしゃりと頭を撫でる。何も言わず、カルルはゆっくり寄り添ってきた。
「本当は、兄さん…何も変わってなかったのに…」
「いいんだ。こうしてまた話せる…それだけで十分だ」
緩く抱きしめてやると、きつく、きつく縋り付く様に抱き返された。
あぁ、また俺達の時はゆっくりとだけれど、刻み始めている。
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変化していく事は悪い事ではない
けれど寂しい事でもある