ジョージは悪くない。悪くないけど、どうしたって恥ずかしいと思ってしまうのだ。ジョージが無自覚に残していった熱は一日たった後でも冷めてくれそうにはなかった。昨日の疑似泥酔状態だった時の記憶はなくて、フレッドに助けられてジョージが元に戻った後、顔を真っ赤にして、自分ではわからないが見るに堪えない状況だったのだろう。どうしたんだ、と心配して近寄ってきてくれたジョージの手を取らずに、全力で走って逃げ去ってしまってから、ジョージの顔がずっと見れない。避けているわけではないが、遠目に彼を見ると思い出してしまって、彼の目に入る前に逃げてしまうのだ。条件反射のようにドキドキしてしまうし、なんて言うか、まともに話せる気がしなかったのだ。顔が真っ赤なまま話したってジョージにしたら意味不明だし、また理由を聞かれるに決まってる。
だって、もう一度見られたら。

「なまえ」

思い出してしまう。手つきも、声も、私を見つめた瞳も、全部全部忘れられないのに。まるで私が酔ってるみたいだった。恥ずかしい逃げ出したいと思いつつも、ああいう風に触れられることを嬉しく思って、喜んでいる自分だって確かにいるのだ。むしろ、そっちの感情が大きくて、そんな感情を抱いてしまった自分が恥ずかしくて、ジョージの顔が見れなくなる。好きだから。好き、好き、大好きジョージ。自分は自分が思っていたよりもすごく不器用だったらしい。あの時みたいに、名前を呼ばれたい。見つめてほしいし、触れられたい。だけどその反面、どんどん自分を失っていくみたいで、恥ずかしくてたまらない。嬉しいのに逃げ出したいなんて感情、自分でもどうすればいいのかよくわからなかった。

「はあ…どうしよう…」

しばらくは誰も帰ってはこないであろう、寮の暖炉の前のソファに縮こまっていた。夜ご飯を大広間で食べるのはホグワーツの生徒すべてに通ずることなのに、今日ばかりは行きにくかった。だって、ジョージがいるから。ジョージを避けているわけではない、本当に。ただ、ジョージの顔を見たら絶対、自分のことだから顔が火照るに決まってる。血色がいいらしい。暑くなっても顔が赤くなるし、たぶん、ジョージの前でだって顔が赤い。何もないのに、突然顔が赤くなるのを見られたり、うまく話せなかったり、そんなことでジョージに引かれたくないし、誤解を招きたくはない。ジョージは、どう思ったかな。アンジェリーナに、今日はおなかが痛いから行かないとそれらしい理由を言ったけど、違和感はなかっただろうか。

「なまえ」
「ジョ…フレッド!」
「正解。よく間違えなかったな」
「わかるよ」

仮にもジョージの彼女なのだ。ジョージかフレッドかちゃんとわかる。最初の頃とかは全然わからなかったし最近でも、二人が一緒に遠くの方に居たりすると全然わからなかったりもするけど、基本的には見分けられるようになってきた。フレッドもジョージもこの上なくイケメンだけど、ジョージの方が少しだけ優しい顔をしている。

「ちなみに俺には酔った時の記憶があるぞ」
「…お見通しじゃん」

フレッドが私の隣に腰かけながら、にやにやとそういうフレッドには、私の考えていることなどお見通しらしい。避けてるわけじゃないよ、というと、フレッドはどうだか、とわざとらしくはあ、とため息をつきながら言った。

「ジョージが気にしてたぜ。なまえが避けてるってな」
「え…!違う、避けてるわけじゃ」
「ないっていうのか?あれだけ、あからさまに俺たちに寄り付かないくせに?」

う、と言葉を詰まらす。確かに、いつもはジョージとフレッドを見つけたら真っ先に近寄っている。ジョージを見ると嬉しくなって近寄るのもそうだし、もう半分無意識の事である。確かに、今日はそれがなかった。つまりは、私がいつも二人に縋りすぎなのである。日頃の二人への執着具合を思い出して頭を抱えた。私って本当に単純でわかりやすいやつなのかもしれない。

「腹痛ってアンジェリーナが言ってたけど、嘘なんだろ?」
「…すみません」
「まあ、あんなジョージは俺でも初めて見たって」

にやにやしている彼は、これでも私を慰めよう…というと変だけど、少しでも状況を良くしようとしてくれているのだろう。弟のためだろうけど、フレッドはいつでも私を助けてくれる。ジョージがああいうことになった時も、酔いがさめたフレッドが真っ先に探して助けに来てくれた。そういえばフレッドはみんなよりも早く大広間を抜け出してきてくれたのだろうか。ジョージと私のために。本当にやさしい人である。

「なあ、ジョージはなまえが思ってるよりも、なまえの事すきだぜ」
「え?…え」
「お前もジョージの事大好きだろうけどさ。あんま避けてると、あいつも悲しむだろ」
「う…ジョージ…」
「あんまり俺の弟を悲しませないでくれよ」

ポンポン、と私の肩に手を回して軽くたたいて、落ち着かせてくれるフレッドの言葉を聞いて思わず涙腺が緩んだ。自分が大げさだったのだ。そんなことはわかってる。ただ、いつも自分がジョージの事がすきだと表現するタイプだから、逆にジョージに突然ああいうことをされて、耐性がついてなかっただけで。フレッドはやさしい。本当のおにいちゃんみたいだ。大好きなジョージと顔も性格も思考も瓜二つの片割れである大好きなフレッド。ジョージもフレッドも大好きだけど、それぞれにむける感情は全然ちがう。同じ二人なのに、こんなにも違う、と度々感じることができた。

「ジョージに会いたい…」
「同じ顔がここにいるだろ?」
「フレッドじゃん」
「失礼な奴だな。俺じゃ不満か?」

フレッドのせいで無性にジョージに会いたくなった。フレッドは私の言ったことに満足したのか、私の返事なんて分かっているくせに、からかうように近付いてくる。こういう性格だとわかっているので、私も必死に抵抗したりはしなかった。冗談だとわかっているからだ。ただ、ほとんどジョージと同じ顔しているフレッドに迫られると、やっぱりどうしても不可抗力でドキドキしてしまう。心の中でジョージに全力で謝りながら体制を引いて、フレッドを見ないように顔をそらした。

「つれないな」
「あ…当たり前です!私にはジョージがいるので!」
「ちぇっ…おもしろくないな」

ぶーっとぶすくれたように私を見るフレッドに向き直って、膨らんでいるほっぺを人差し指でつついた。するとぷす、と頬から空気が抜けて元のフレッドの顔に戻った。それが可愛くて思わず笑うと、フレッドも満足そうに笑った。なんだか、今日一日中少しだけ悩んでいたのがばからしくなってきた。フレッドは本当におにいちゃんみたいだ。いつでも私を助けてくれる。私が元通りになったとわかったのだろう。だけどそれにも関わらず、フレッドは身を引こうとしない。それどころか、私の髪に手を伸ばしてくるくるともてあそび始めた。

「やめてよ。イケメンがそういう事するとときめくじゃん」
「俺はなまえなら大歓迎だけど?」
「それも!私は少女漫画脳なんだからそういうの弱いの!」

少しからかいすぎではないだろうか。わたしほんと…ていうか単純にフレッドはかっこいいんだから軽率にこういうことをするのはやめてほしい。どうしたのだろうか。また顔ごとフレッドから目をそらして、身を乗り出して近づいてくるフレッドを手で押し返した。フレッドがこういうキャラだとわかっていても、今日のフレッドはなんだかタラシが過ぎる。

「ジョージならいいの?」
「は…そ、そん…!」

分かってるくせにわざわざ聞くな!と思いながら、いよいよ耐え切れなくなって後ずさりした。顔を真っ赤にした私を見て、フレッドがまたにやりと悪戯そうに笑う。ほら、やっぱりわざとだ。フレッドのアホ、イケメンが軽率にそういうことするな!その気持ちを込めながら、どいてよ、と言うと、やっとフレッドは身を引いた。ちなみに私の顔は赤い。それをみてまたフレッドがにやにやするから、彼の言いたいことはいやでもわかってしまった。くそ、私はこの兄弟にそろいもそろって勝てることが出来なさそうだ。

「なまえ?あら、フレッドもいる。体調は大丈夫?」
「うん、ありがとう!」

それからすぐアンジェリーナが入ってきて、続けてグリフィンドール生が続々と中に入ってきた。夕食を追えたようだ。

「何突っ立ってるのよジョージ、早く来なさいよ」

アンジェリーナが振り向いて、ドアの付近にいるらしいジョージに声をかけた。ここからは見えなくて、少しドキッとしながら、そこから入ってくるであろう場所を見つめた。ジョージに謝ろう。別に避けてたわけじゃないけど、フレッド曰く悲しんでたらしいし、避けてたわけじゃないからこそ誤解を解きたい。そうおもって駆け寄ろうとするけど、ジョージは入ってきて私の方など一切見なかった。ジョージ、と呼んだ声は、フレッドがジョージに駆け寄った時の声によってかき消されてしまった。こちらを顧みることもなく男子の部屋に行ってしまったジョージの背中を見送りながら、こころにぽっかりと穴が開いたような気持ちになっていた。



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