もう一度説明しよう。
これは、アルコールを摂取していないにも関わらず、飲んだ人間を、泥酔状態になった時と同じ状態にすることのできる"ジュース"である。

「飲んで」
「いやだ」
「不公平だろ!」
「や、やだ!絶対にいやだ!」

そして目の前で繰り広げられているのは、このジュースを巡っておきている攻防戦である。

「俺だけ知らないなんて不公平だ!」
「知らない!巻き込まないでよ…や、やだってば!!」

いや、攻防戦というか、もはやただイチャイチャしている様子を見せ付けられているだけな気もしている。
仲直りしたらしい片割れとなまえはすっかりいつも通りに戻り、しばらく感じていた少しだけの違和感が完全に消えて、普段通りの日常が戻ってきた。いや、むしろその違和感の当事者である、目の前でイチャイチャしている二人は前よりも仲良くなったように感じる。ちなみに目の前で繰り広げられている攻防戦というのは、俺たちが作った例のジュースを飲んだら自分の彼女がどうなるのか気になって仕方ないジョージと、失態を見られたくないのか何が何でも拒否しているなまえによるものだ。

「フ、フレッド…!お願い助け…!」

そしてこういう風に俺に助けを求めてくるなまえを見るのは最近で何度目か分からないが、なまえは忘れている。

「観念しろ、なまえ!」
「ぎゃーー!!」

そう、俺は、なまえが愛してやまないジョージとほぼ同じ思考回路を有している双子の片割れであるということを。
さすが双子というべきか、俺のする行動が分かっていたのかいないのか、ジュースが入った小瓶を俺に渡してきたジョージが、「ひと思いにやれ!」と悪戯しているときのような表情を見せながらなまえを羽交い締めにした。本気で嫌がるなまえに、ジョージが言うとおりひと思いに小瓶に入ったジュースを全て飲ませる。しばらく暴れていたなまえだが、少しするとしゅんと大人しくなる。それをみて腕の拘束を解き、新しいおもちゃを見つけたようにわくわくしている片割れの表情を視界の端に捉えながらなまえを凝視する。きっと、どのような姿になるのか気になって一緒になってわくわくしている俺も、ジョージと同じような表情をしているに違いない。

「お?」

今か今かと待ちわびていたら、大人しくしていたなまえが突然はじかれたように顔を上げた。

「あははは!」
「!」
「超かっこいい、きゃー!え?アイドルじゃん!やだーアイドルにならないで!私の彼氏だから〜!」

あははは、と楽しそうにケラケラ笑うなまえをみて察する。
酔ったらアホになるタイプだ。

「なまえはどっちかっていうと俺寄りだな!」

ジョージにそんな言葉を投げかけながら、ジュースが入っていた小瓶をなまえの前でふらふらさせると、何が面白いのかげらげら笑っている。アホになるついでに笑い上戸にもなるのか。知能指数が著しく下がっているのが一目瞭然だ。

「あは、ジョージおもしろい!大好き〜!」
「お、おいなまえ…!」

多分なまえは、普段俺たち双子を明白に一瞬で見分けれるわけではないのだろう。普段三人でいても、ジョージがなまえの隣に立ったり気遣ったり、自然に彼氏としての仕草が多いおかげで、なまえが俺たち双子のどっちがどっちなのか分からなくなったり、私生活に差支えがあるようなことはほぼ無い。なまえはなんとなく俺たちを見分けられているのかいないのかは分からないが、日ごろの行動から推測した上での勘や言動からの推測でなんとか乗り切っているようだ。ただ、今回は話が違う。泥酔状態でIQが著しく低下しているなまえは、何の根拠も無く、目の前にいる人物こそが、俺たち双子の中で真っ先に浮かぶ方の人物と認識しているらしい。
ちなみに、なまえの言うジョージは、羽交い絞めにした流れでまだなまえの後ろにいる。

「やめろ…!俺はジョージじゃないって」
「うっそだー!」

嬉しそうに飛びついてきて、俺の首もとに腕を回してぎゅうぎゅう抱きしめながら、嬉しそうに、幸せそうにくったくなく笑うなまえ。恋愛感情は皆無とは言え、なまえは俺にとっては大切な友人の一人である。じゃれあいの延長線上だと思えば、こんな愛情に満ちた、愛しいといわんばかりの笑顔を向けられて嬉しくないわけはないが、今はそれどころじゃない。というかジョージ、日ごろの二人の様子から察するに、多分なまえにこんなことされたこと無いんじゃないか。やばい。いろんな意味でやばい。やっぱり、ジョージに変な因縁をつけられる前に、現状をどうにかすることの方が重要だ。

「なまえ、そっちはフレッドだ!離れろ!」
「やーだージョージがいい!フレッドはあっち行って、ねージョージ!」
「ちがう…!」

なんでこんなに頑なに俺をジョージだと思うのかは分からないが、今にもハートが飛んできそうなくらい俺にメロメロ状態のなまえ。前言撤回だ。酔ったなまえは俺より、ジョージのそれにも近い!
なまえが何かを言うたびに、ジョージから大切な何かを奪っているような気持ちになり気が気じゃない。バカなまえ、完全に間違ってるから愛しそうな目で俺を見るな!

「ジョージぎゅーしよ!」
「やめろそれ以上言うな!目を覚ませ、俺はフレッドだ!」
「うっ…なんでそんなこというの〜!?」
「フレッド…!」
「まてまて俺は悪くないぞ、違うだろどうみても!」

面倒くさい!
口に出さない俺は褒め称えられるべきだ。俺の目を見ながらとてつもなく悲しそうな顔で泣き始めるなまえと、俺を攻めるジョージ。なんでだ。どうみても俺は被害者だ。必死に二人から目をそらし横を向きながら、手を上に上げてなまえに触ってない、俺は受身だ、何もしてないと必死にアピールをする。抱きつかれている相手が俺じゃなくてジョージだったとしたら、俺は端から大爆笑してジョージとなまえをからかえたというのに、なんてことに!

「こっちむけ、なまえ」
「やだー!ジョー…」
「なまえ」

さっきまではなまえを俺から引き剥がそうと必死だったジョージが、ふいにあやす様に落ち着いた声で話しかけた。優しい声でなまえの名前を呼ぶと、今まで暴れだしそうな勢いでジョージ(俺)にとびついていたなまえがふと動きを止めた。

「ジョージ…?」

俺の首元を締め付けていた腕の力が弱まる。

「俺はこっち。おいで」

ゆるっと微笑みながら手を差し出すと、今まで全く聞く耳を持たなかったなまえが、完全に俺から離れてふらふらとジョージに手を伸ばす。なまえがゆっくりと手をあげると、ジョージが少しかがんで、その手はジョージの頬に触れた。

「ジョージ…?」
「そうだよ」
「ほんもの?」
「うん」
「あっちは、フレッド?」
「フレッド」

やっと、目の前にいた俺ではなく、後ろにいた方が本物のジョージだと理解したらしい。そんな…!と噴出しをつけたくなるくらい、悲壮に満ちたショックな表情を浮かべるなまえ。いや、何回も言っただろ、俺!

「違…ごめんね」

今までとは打って変わってしゅん、と落ち込むなまえ。様子を見るからして、まだジュースの泥酔効果は続いているらしい。目を潤ませている様子からしても、どうやらなまえは、酔うと感情の起伏も激しくなるらしい。

「怒ってる?」
「さあ?」
「怒ってない?」
「どうでしょう」

なまえを見つめながら、本来の余裕を取り戻したらしいジョージは、なまえの不安そうな問いかけに、静かに答えている。相反して不安そうに揺れるなまえの瞳は今にも泣き出しそうなくらい弱っていた。俺からすれば、表情を見ればジョージが今思っていることなんて考えなくても手に取るように分かるが、そうじゃないなまえはただただ不安らしく、ジョージを見つめる瞳はあまりにも弱弱しい。

「ごめんね、許して」

懇願するように切ない声でそう言って、ジョージの頬を包み込む。
そして、ゆっくりと。目を瞑りながら、唇を重ねた。

「…!」

なまえのこんな行動は今までで初めてで、ジョージもこれにはさすがに驚いたらしい。いまだに唇を離さないなまえは眉を下げ目を閉じているが、一方受身のジョージは目を開けたままだ。なんて表情だ。そしてダサいぞ。愛しくてたまらないらしい自分の彼女が酔っているといえどもキスをしてきているというのに、固まって動けず、抱きしめるどころか撫でてすらやれないとは。俺の相棒ともあろう者が、いつもあちこちで悪戯を仕掛けている者の表情とは思えない。俺だったらな、どさくさにまぎれて…
…まあ、なまえのこんな行動が、あまりにも普段からは想像ができないゆえの反応だろうが。
唇を離したなまえは、いまだにジョージの両頬に触れたまま、じっと目を見ている。その様子からは恥ずかしさや興奮した様子は一切感じられず、ただただ不安そうな姿だけが見て取れる。俺とジョージを間違えたことに相当の非を感じているのか。それかはたまた、最近のジョージとのすれ違いが頭の隅にあって、その事への気持ちも含めての、この表情なのか。

「…まさかなまえからしてくれるなんてな」

照れた様子もうろたえた様子も無く、少しの驚きを含んだような声色で、やっとジョージが口を開いた。表情は少し嬉しそうで、我が相棒ながらあまりにも分かりやすい態度だとつっこみたくなる。俺には一切見せない(当たり前だが)、優しい表情でなまえを見つめて、ジョージもまた、なまえの頬に触れる。

「俺とフレッドの発明は天才的だと証明されたわけだ」
「え…?」
「そうだなまえ。俺は怒ってるぞ」

酔ったなまえがこうなるのならば、それはジョージにとって最高の展開だろう。怒ってる、といいつつ、これ以上ないくらい優しそうな顔をしているし嬉しそう…というか俺からしてみれば鼻の下が伸びてるアホ丸出しの表情だが、思考能力が低下しているなまえはショックだったらしい。泣きそうな顔で、何を言っていいか分からずにいる。

「もう一回してくれたら許す」

頬と首筋を、ゆっくり撫でながら言うと、なまえは驚いたのか嬉しいのか良く分からない表情を浮かべたあと、安心したように弱々しく笑って、そしてもう一度…。

…と、イチャつく姿の実況もここまでだ。
この二人、俺の存在忘れてないか?帰っていいか?

とはいうものの、弟と恋人の仲が戻ったことに対してほっとしている俺は、結局はちゃんとこいつの兄らしかった。内心では二人を祝福しながら、本能ではいい加減にしろと思ったので、二人の唇が触れる前に、おもいっきり割って入ってやった。





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