彼はいつでも私の視線を奪っていく。突然現れては、誰かに悪戯を仕掛けながら、目まぐるしくくるくると表情を変えて、それを見つめていれば、すぐにどこかへ去って行ってしまう。学校で人気者の二人を自分のところだけに捕まえておくことなど不可能だった。
何故、私はあんな人に恋をしてしまったのだろう。寮が違うし、低学年の時と違って、取る授業もなかなか被らない。話した記憶は、正直言って全くない。ただ、いつも話題の中心にいる二人を眺めているだけ。接点なんかない。それでも、何故か私は、いつもその人を目で追っている。

「なまえ」
「ディゴリーくん」
「全く、名前で呼んでくれといつも言っているだろ?」
「まだ、なれなくて」
「まあ、ゆっくりでいいけどね」
「チョウは?」
「あっちで待ってるよ。なまえも行こう」

そういって、ディ…セドリックくんは私の手を引いた。日本人である私がホグワーツに来て、一番最初にぶつかった壁は、中途半端だった英語だった。言ってることはなんとなくわかったけど、理解しきれないところもあったし、自分が話すにしてもカタコトだった。困っていた私に、断片的にでも、わかりやすく英語を教えてくれたのが、同じ寮になったセドリックくんだった。日常生活の間に単語帳や辞書や日本にあるドリルとかを持ち出して、自分で言うのもあれだけどしぬほど勉強した。今では、問題なく会話をできるようになった。たまにわからない単語があったりするけど、差支えはあまりなかった。

「なまえ、遅い!」
「ごめん…ちょっと、大広間で」
「ウィーズリーの双子を見てたのね?」

すぐに察したらしい。セドリックくんに連れられてチョウのところまでやって来ると、私の態度を見たチョウがすぐにそう言った。今度は何の悪戯を仕掛けているのだろうか。誰に、どんな風に、何を。いつもその輪の中に入っていきたいのに、入っていけない。だから、ずっと遠くから見ているだけ。

「どっちが好きなの?フレッド?ジョージ?」
「チョウ…まあまあそこらへんで」
「セドは気にならないの?」
「別に…」

気にならんのかい。苦笑いを浮かべたセドリックくんをいろんな意味を込めて見つめると、また苦笑いされた。本当にこの人は、チョウにしか興味がないのか。まあ、私の好きな人がどっちであろうとセドリックくんにとってはどうでもいいことというのも、全くその通りだけど。

「さあ…わかんない。いつも騒いでる方」
「分かんないって…どっちも騒いでるじゃない」
「だって、見分けとかあんまりつかないし」
「…まあ、あの二人はかなり似てるから仕方ないわね」

本当にそうなのである。どっちが好き、と聞かれても、どっちがどっちか分からないのだから仕方がない。話したことすらないのに、見分けろという方が無理な話だ。
でも、そうだな。あえて言うなら。

「…よく、女の子と一緒にいる方、かな」
「まあ!それ、アンジェリーナじゃない?」
「ああ、彼女か」

セドリックも、その…アンジェリーナという人を知っているらしい。名前は初めて知ったけど、私はその人を良く知っている。双子と、あとクディッチの実況をしている人と、よく一緒にいる。そして、双子のどちらかとよく一緒にいる。双子の両方とよくいるわけではないと断言できる。だって、一年生の頃からずっと見てきたのだ。わかる。双子が一緒にいるとき、アンジェリーナさんを見れば、嬉しそうに駆け寄って、肩を抱いたり腕を組んだり、はたから見れば付き合っていると思うようなしぐさをするのは、いつも決まってどちらか一方だけで、もう片方はそれを楽しそうに見ているだけなのである。それが証拠だ。

「それならきっとフレッドね。あの二人は…あー」
「いいよ。わかってる」
「違うの!付き合ってる訳ではないと思うけど…」

すごく、仲がいいの、と目を伏せて、申し訳なさそうに少し小さな声で言ったチョウをみて思わず笑ってしまった。そんな、気をつかわなくてもいいのに。所詮私は遠くから見ていただけ。一度も話したことがないのに、好きかも、だなんて言っていただけ。きっとただの憧れだと思ってる。だから、チョウがそんなに申し訳なさそうにすることはないのに。

「どっちかじゃダメなの?ジョージは、噂になるような女の子はいないって聞くし」
「チョウ、大丈夫だよ。ありがとう」
「でも…ううん。私はなまえを応援してるからね」
「ありがとう。私もセドリックくんとの仲を応援してるね」
「なっ…!」
「ちょ…なまえ!」

今まで黙り込んでいたセドリックくんもチョウと全く同じタイミングで突然声を上げて、顔を火照らせている。付き合っているという事実はないけれど、すごく仲がいいのはフレッドくんとアンジェリーナさんだけじゃないことを、目の前にいる二人の友達である私は良く知っている。恥ずかしさからか固まってしまったチョウと、やられた、といった様子でこっちをみてくるセドリックくんに、ごゆっくり、と言葉を残してその場を去った。そうそう、当初の目的は一緒に課題を終わらせることだったのに。一個下でもチョウはレイブンクローなだけあって頭がいいから、いろいろ手伝ってもらおうと思ったけど。よく考えてみれば、年上の品格というものが台無しだし。それに、二人の方がいいだろうしね。行く当てもなくてふらふらと校内を歩いて、中庭にたどり着いて。1人ベンチに座って、空を仰いだ。今日は快晴だ。そよそよと吹く風が気持ちよくて、脳裏にちらつく先ほど見ていた赤を思い出しながら、そっと目を閉じた。



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