「よっ、ダイナソーの君!」
「気分はどうだい?ダイナソー姫!」

ケラケラ、楽しそうにからかいながら私の隣を通り過ぎていくのは、ウィーズリー家の双子である。ハーマイオニーの隣を歩いていた私を見て、ニヤリと笑みを浮かべながら悪戯そうにそういって去って行った。突然来て突然去って、あっという間な二人の行動に驚きながらも、また恥ずかしさで顔が熱くなった。

「また?いつまでその話で盛り上がるんでしょうね」
「う…マジもうやめてほしい」

あの晩の出来事以来、ダイナソーの君、もといジョージ先輩と、ジョージ先輩の双子の兄であるフレッド先輩は私を見つけて、ことあるごとにからかってくる。もちろんその内容はすべて、ダイナソーの君についてである。私が心の中で勝手に呼んでいたあだ名のはずなのに、今では面白がられて逆に私がダイナソーの君とか、もはやダイナソーとか呼ばれてる。ダイナソーって恐竜じゃん…普通に嫌なんだけど。
双子がからかいに来るたびに羞恥心が爆発していてもたってもいられなくなるものだから、いい加減にダイナソー熱が冷めてくれないかとことあるごとに思っている。

「いい加減にしつこいわ」
「ハーマイオニー…!」

双子を否定するわけじゃなくて、自分の味方であると言ってくれるようなハーマイオニーに心の底から感動する。ただ単に恥ずかしくて二人がたまに訪れるたびに穴に入りたい。それに、私は疲れていた。新しい生活が始まって、魔法史、薬草学、変身術とか、いろいろ授業を受けたけど、何もかもが目新しくて新鮮で、知らないことだらけだった。ちなみにさっきはスネイプ先生の授業を受けたけど、あの授業はダメだ。というか先生が怖すぎる。そういえばあの授業でも、思い出してみれば最初にマルフォイ君とハリーが話していた時、私はダイナソーの君(その時はそう呼んでいた)のことを考えていたから聞いてなかったけど、その時も、ハリーをみて”あのハリーポッター”と言っていた。なんでそんなに有名なの?もしかして魔法界の歌手とかなの?ハーマイオニーは、私みたいに魔法族の出ではないらしい。そういえば、ハーマイオニーもハリーの名を聞いて驚いていた。私と同じはずなのに、全然同じじゃない。ハーマイオニーはすごい。ずっと魔法に触れて生きてきたわけではないだろうに、独学で勉強したり、本を読んでいるからだろうか。ハリーやロンよりもたくさん物事を知っている。成績も、すごくいいんだろうなあ。

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

ハーマイオニーがもっている杖の先を、白い羽がふよふよと浮いている。唖然とそれを見つめる。すごい。ちなみに私の羽は全く浮かなかった。ちなみに、飛行訓練の授業でも、いくらあがれ!と言っても、私の箒が浮くことはなかった。先生の見ていない隙にこっそりと手で拾ったくらいだ。ネビルがふよふよ浮いて、すごいと思っているうちに暴走して、そこで授業が中断した。それが無ければ、たぶん私は浮けずにずっと杖にまたがっているだけだっただろう。ハリーやマルフォイ君は自分の足のようにすいすい浮いていたけど、衝撃とか、そのほかの感情とかでまた唖然としたのを覚えている。さっきのスネイプ先生の授業だって、ハリーにたくさん質問していたけど、私は一つの単語も理解できなかった。ハーマイオニーは手を上げていたけれど。変身術だって、何も反応しない。今だって、いくら言っても羽が反応することはなかった。
私は本当に魔法使いなのだろうか。ていうか、絶対魔法使えないんだけど。何かの間違いなんだ。私は、きっとここにいるべき人じゃないんだ。

「ハーマイオニー…ごめん、先に行ってて」
「分かったわ」

授業中ずっとそんなことを考えていたら、いつの間にか終わっていた。なんだかテンションが下がってきた。先に言っててといいつつ、自分はみんなが歩いていく方とは逆の方向に、真っ先に歩いていく。もうだめだ。正直帰りたい。お肉や油っこい料理にはまだ慣れないし、米が食べたい。ちなみにこの前のフクロウ便では、せっかく学校に通わせてくれてる親に学校を辞めたいというのも気が引けて、米が食べたいですと手紙をおくった。日本の友達に会いたい。お母さんに会いたい。ここに私がいるのはおかしい事なんだ。私は、ここに居ちゃいけない。そんなことを考えながら、自然とうつむいてすたすたと足を進めた。まだ学校の地理は覚えていないのに、行く当てもなく歩いた。とりあえず、一人になりたかった。あの空間にいるだけで、自分は仲間外れだって、そんなこと誰も思ってないと思うし、私一人の被害妄想だというのに。

「…うわ!」
「ぶっ!」

そして、デジャヴ。誰かの胸元に思いっきりぶつかった。また周りを見てなかった。ごめんなさい、言おうとすると、上から聞き覚えのある声が降ってきて。顔を上げた。

「わお、二度目だね」

くりくりとした大きな目で、どこか悪戯そうに笑っているその人の目は、どこかやさしそうに見えた。二度目、といったという事は、ここにいるのはジョージ先輩だという事だ。赤毛が揺れる。また、いつかの。あの時みたいに笑うから。心の中の何かが一瞬にしてほぐれていく。

「うん、やっぱりきれいな黒髪だ!」

そして、ふと気がゆるんで、こみあげたそれが涙となって、頬を伝った。

「え!?」
「あ…す、すみません!」

驚いた表情に変わったその人を見て、また慌てて頭を下げて謝った。そそくさとそこを去ろうと早急に足を進めて離れようとすると、後ろから、待って!という声が聞こえた。

「おいで」

振り返ったら、謝るでもなく、驚くでもなく、悪戯そうにでもなく笑った顔。ああ、そういえば、まともに話した…というほどでもないけど。からかわれること以外で、双子と…ジョージ先輩と話したのは、学校に来てからはこれが初めてかもしれない。呼ばれるままに足を戻して、吸い寄せられるようにして。ジョージ先輩のもとへ歩いた。



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